私たちハートの海賊団の船は、ただいま冬島に来ております。冬島はすげー寒いぞって船員たちからも聞かされていたけれど、まさかこんなに寒いとは……なめてた。
 皆より薄着で上陸したために、とても寒い。モコモコのベポにしがみつこうとしたら、なまえの体が冷たくてこっちまで寒くなるからダメ、と断られてしまった。

「キャプテン」
「なんだ」
「さっ……寒い、ですっ」
「そんな薄着してるからだ」

 隣にいるキャプテンに話しかけても、知るかそんなことと言わんばかりの顔で返される。船の貴重な紅一点が風邪引いて熱を出してもいいというのか、この男は。自分ばっかり暖かそうなふわふわのコート着ちゃって。私なんかマフラーしかないのに。首しか守れていないのに! そんな私の視線に気付いたのか、キャプテンはこれ見よがしにふわふわのファーに顔を埋め、ふぅっと息を吐いた。

 なんだよ、暖かいアピールかよ! ちょっとイラッとしたので、キャプテンの首筋のところから雪を一掴み入れてやった。

「………なまえ、お前はそんなに俺に消されたいのか」

 ギロリと横目で睨まれたけれど、べーっと舌を出して精一杯の挑発をした後、ベポの後ろへ全速力で駆けていった……が、途中で滑って転んだ。
 大丈夫かと手を差し延べて立たせてくれるベポに、礼を言って抱きつく。モコモコして暖かい。ベポは優しいな、キャプテンと違って。血も涙もないキャプテンめ! 私がもし風邪引いたりしたら、真っ先にキャプテンにうつして治ってやるんだから。

「なまえ」
「なに、ベポ」
「キャプテンがこっち睨んでる」

 ちらりと見てみたら、本当にこっちを睨んでいた。まだ怒っているのだろうか、背中に雪を入れたことを。ベポが「とりあえずさっきの雪のこと謝ってきたら?」と言うので、腑に落ちないけれどベポに免じて謝ることに。本当に仕方なくだよ。決してキャプテンの睨みに屈したわけじゃないんだから。

「キャプテン」
「………」
「まずは睨むのをやめてください」

 睨まれたままではさらに謝りづらいので、控えめに頼んでみる。キャプテンは一瞬嫌そうな目をしたけれど、睨むのをやめて視線を逸らした。

「先程は背中に雪入れてごめんなさい本当に反省しています」
「………」

 棒読みで謝ると、キャプテンは溜息をついた。まだ何か不満なのか。今度は何ですか? と聞きながらキャプテンを見上げる。
 次の瞬間キャプテンが少し近付いて、ふわっと暖かくなった。視界は真っ黒で、何が起こったのかすぐには分からない。あれ、もしかして抱きしめられてる? だとしたら私、間違いなく人生で初めて男の人に抱きしめられた。

「あ…の、キャプテン?」
「黙れ」

 キャプテンの匂いでいっぱいでくらくらし始めた頭をフル回転させて発した言葉も、キャプテンによって遮られる。顔を上げてみたらキャプテンがすごく近くて、綺麗な顔だなとか少し思ってしまって、そんなことを考えた自分が恥ずかしい。
 堪えられなくなって下を向こうとしたら長い指に顎を掬われて、これってもしかして少女漫画によくある突然のキスってやつなんじゃ――、

「っ……キャプテン…」
「少しは暑くなったか?」
「……体温が10度近く上がりました」
「そうか」

 真っ赤であろう私を見ても全く動じず、にやりと笑う。さっきまでこの笑みにイラッときて背中に雪入れてやったりしていたのに、今は自分で聞こえるほどにドクドクと鳴り続けている心臓がうるさい。

「あれ!? キャプテンとなまえのやつ、いつの間にそんな関係に!」

 ……そして後ろでヒューヒュー! と騒ぎ立てる船員たちもうるさい。あとで船に戻り次第、ベポ以外の全員をチョップ攻撃してやる。そんな物騒なことを考えていたら、再びキャプテンの顔が近付いてきて、触れるだけのキスをした。

「つきっきりで看病してやる」
「へ?」
「熱が10度上がったんだろ? 下がるまで荒療治でよけりゃ治してやるよ」
「……まさか、それって」

 顔に熱が集まっていく。熱くて、暑いし、すごく恥ずかしい。さっきよりも茹で蛸のように赤くなっているのが、自分で分かった。

「ん? 今ので意味が分かったのか。案外頭がいいな」
「それくらい分かりますよ! 私だってもう大人の女なんですから!」

 ちょっとばかり見栄を張った発言をしたことを、すぐに後悔することになる。

「大人の女…ねェ」
「そ、そうですよ! 大人ですよ!」
「なら早速、今夜の治療で確かめてやる」

 夜が楽しみだと意地悪く笑い、キャプテンはベポたちの所へ歩いていく。数分後には、騒ぎ立てていた船員たちが真っ青になって逃げ回っていた。とりあえず私は凍てつくような寒さも忘れ、夜の治療とやらからどうやって逃げようかを考えていた。


 ――夜。

「よし、キャプテンいない! 今「のうちに、なんだ?」……あ」

 ベポの元に逃げて一晩隠れていようと考えたのに、妖しく笑うキャプテンに腕を掴まれた。しまった、逃げられない。

「あの、熱はもう下がったんですよ! むしろ下がりすぎちゃって! あはは!」
「……なら、また熱を上げてやる」
「へ、」

 気付いたらキャプテンの部屋の大きなベッドに寝かされていて、ああもう絶対に逃げられない、と心の中で小さく嘆いた。……でも、イヤじゃないかもしれない。そう思っている私は、相当キャプテンが好きだったらしい。


 自覚


「ベポ……私キャプテンのこと好きなのかも」
「うん、知ってるよなまえ」
「えっ」
「たぶんクルーは皆知ってるよ」
「………」


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