「ねぇ、バッスン」
「ボッスンだっつの馬鹿なまえ。今の間違いはわざとだろ」
「ボッスンボッスン」
「何だよ、さっきから!」

 さっき部室に遊びに来たこの女。さっきから俺のことを呼ぶだけ呼んで、何も用事はねぇみてぇだし……何しに来たんだ?

「まぁまぁ、ボッスン。なまえはもう部員みたいなモンやろ? もうちょい優しく出来へんの?」
「ふん。ヒメコはなまえに甘すぎんだよ!」
「だって……めっちゃ可愛ええねん! なまえ、ゆっくりしてってや? ゆっっっくり! な? スイッチ」
[ああ。まったくボッスンは素直じゃないなw]
「笑ってんじゃねーよ! 俺は常に素直だから! 素直すぎて卑屈になっちゃうくらいだから!」
「ボッスン」
「だから本当お前何しに来たんだよ!」

 ヤケになりつつなまえの方へ振り向くと、突然立ち上がって俺の隣に座ってくる。

「何だよさっきから、俺に用でもあんのか?」
「私今日は依頼で来たんだよ」
「は? 依頼?」

 何だよ。そんなら早く言ってくれりゃいいのに、追い返すところだったじゃねぇか。

「あの、えっと…」
「何だよ?」
「………ハッ! スイッチ、ペロキャン買いに行くん付き合うてくれへん?」
[ああ]
「は? おい! どこ行くんだよお前ら!」
「ええから! 今日は大量に箱で買い溜めするから、荷物持ちが必要やねん!」
「ちょっ」

 皆行っちゃった。俺を置いて。

「あのっ、ボッスン!」
「んぁあ?」
「つ、付き合ってください!」
「なんだ? トイレか?」
「違っ……子どもじゃないんだからトイレって……もう! ボッスンが好きなの!」
「……は?」

 は? え、こいつ今何つった? 俺のこと好きっつった? てか今告白されたのか、もしかして。もしかして! このこと気付いてあいつらは席外したのか…。

「えっと…なまえ」
「何でもお願い、聞いてくれるんでしょ?」
「……おう」

 ぎこちなくなまえを抱きしめると、少し小さめの手が背中に回る。普段全然気付かなかったけど、こいつこんな小さかったのか……こんなに、女らしかったのか。
 それに気付いちまった今、意識しまくってしょうがねぇ。やべ、俺今絶対に顔赤いぞ。やべーなコレ俺…。

「ボッスン?」
「……佑助」
「え?」
「本名で、呼べよ。……彼女…なんだし? 特別だかんな」
「ボッスン…」
「んだよ! 彼女になんのか、なんねーのか!?」
「……っう、な…る……っ」
「ばっ…泣くな馬鹿なまえ!」

 咄嗟にキスをしてしまうと、びっくりしたのかなまえは一瞬で泣き止んだ。やべ、なんだよ俺、なまえのこと好きだったんじゃねーか。つーかさっきから「やべ」って言いすぎだよ俺。ヤバ沢さんじゃん。

「ボッスン真っ赤」
「うっせ。お前の方が赤ぇよ、バーカ」

 ――少しだけ暑くなった、夕方。


 可愛い君からの依頼


「ああああいつ! アタシのなまえと…ちゅ、ちゅーしよったでスイッチ!」
[ああ、したな。沈黙が長引いているのが気になるところだ]

「……台無しだあいつら」
「佑助、もっかい」
「は?」
「キスして。お願いスケット団」
「あのな、お前な…」
「したれ! キスくらいしたれ!」
「だーもう! ヒメコのバーカバーカバーカ!(卑屈モードON)


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