「ああ、素敵…」

 今日も銃やら何やら、見つかったら即刻逮捕されてしまいそうな物騒なものたちを念入りに手入れする彼…シスター。あの傷痕から何から、もう堪らないわ。

「……ん? なまえか。どうした?」

 シスターをじっと見ていたら、シスター……の手前にいた星から声をかけられた。誰もあんたのことなんか見てないわよ。何よ、さっさと退きなさいよこの星型マスク。ニノに万年片想いのくせに。

「………」
「何?」
「うん…全部声に出てた…」
「そう。ごめんね」
「………」

 放心状態の星型マスクを適当にあしらい、その奥にいるシスターを見つめる。星、邪魔だってば! すると、シスターの古傷から大量の血が噴き出した。驚いて駆け寄ると、そこにはシスターの陰になっていて気付かなかったマリアさんが。

「ふふ。本当情けないわよね、こんなことくらいで倒れちゃうんだもの。いっそそのまま土に還って、植物の成長を助けなさい」

 くすりと美しく笑って去っていくマリアさん。ふと隣を見ると、リクが「もう慣れた」と言わんばかりの清々しい顔で彼女の後ろ姿を見送っていた。私はハッとして、顔から血を噴いて象のごとく倒れたシスターのことを思い出す。

「だ…大丈夫ですか、シスター!」
「………あ、ああ…」
「しっ…死なないでください! シスターがいなくなったら、私困ります…!」

 自分の発言に血の気が引きながらシスターを見る。驚いて見開かれた目と、どくどくと止まることなく流れる血。かっこいいけれど怖い、怖すぎる。
 わ、私ったら勢いでなんてことを! 告白したようなものじゃない! リクとか星頭がびっくりして私を見ているし……ああ、もう恥ずかしくて河川敷歩けない。

「ああああの、今のはあの…」
「………なまえ」
「は、はい」
「今のは…本当か? 私がいなくなったら困るというのは…」

 シスターを抱き起こす私と、私の頬へ手を添えるシスター。はたから見れば、戦争で倒れた恋人を助け起こしている感動シーンに見えるんだろう。P子が涙ぐんでいる。とりあえずシスターの質問に頷いておいた。

「そうか……」

 ふっと笑ったシスターの顔が、薄い膜が張ったようにぼやけた視界で近づいてくる。そっと触れる唇、本当に火が出ているんじゃないかというほど熱い頬。彼の大きな手に抱き寄せられて……え、これまさか……りょ、両想い…?

「あ、あの」
「私もお前が大切だ、なまえ」

 その言葉に顔を赤らめていると、後ろからリクが一言。

「さっきなまえが星と話しているのを見て、シスターは勘違いしてたんだよ」
「勘違い?」
「あいつとなまえが仲良いと思ったんじゃないか? それをマリアさんにボロクソに言われて、貶されたんだよ」

 ああ、妬いてくれていたなんて!

「お、おい! なまえ! 急に抱きつくな」
「好きです、シスター!」
「!」


 遠回しなキューピッド


「マリアさんのおかげです!」
「ふふ、それはよかったわ。あんな家畜以下のような人間でも、女の子を幸せにできるなんてね」
「すいませーん。シスターが血噴きましたー」
「さー、今日はめでたいぞ! 飲め、なまえ」
「いや村長、私日本酒はちょっと」
「ヒーモヒモヒモヒーモヒモ!」
「うぜ」
「大ヒット曲なのに…」

 河川敷は、今日も平和です。


[ back ]