「清」
「ちょっ、今いいとこだから」
「………」

 さっきから筆や墨や紙とお友達なこの男が、一応私の彼氏だ。今日は珍しくなるも大人しい。いつもはうるさいのに。

「なーる」
「なんだ、なまえ!」
「清が構ってくれないから遊んで」
「まかせとけーっ」

 なるは、おーし! と腕捲りをして遊ぶ態勢になってくれる。……何をするつもりだろう。遊ぼうって自分から誘っておいてなんだけど、虫捕りしよう! とか言われたら……ちょっと困る、かも。しかもなるはカメムシさえ収集する強者。

「せんせ!」
「ぐあ! ああ、字が!」
「先生も遊ぼう!」
「は!? なる、今俺忙し…」
「さっきからなまえがさみしそうだぞっ」

 なるが清に飛び付いて、私を指差しながら清を怒っている。清は目を丸くしながら、私となるを交互に見た。

「……わかった、付き合う」
「やった! よかったななまえ!」
「う、え!? うん…」

 はやくいこう! って全速力で駆けていくなるを追いかける私の手は、ところどころが墨で汚れている大きな手に握られていた。

「……寂しいなら俺に言え、なるじゃなくて」
「…うん」

 でもね、私、書いているときのあなたが大好きだから。


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