「おい! なまえ、起きろって! なまえ!」
「なまえ! 起きなよ、兄さんが怒ってるよ」
「あと3時間……」
「「だめ!!」」

 さっきから俺とアルは、なまえを起こすためにベッド脇で何度も叫んでいる。なのにコイツは全く起きやしない。「パン買ってきたよ!」と階段の下からウィンリィが呼んでいる。早く行かねぇと俺とアルが殴られるな、確実に。なまえには怒らないくせに。

「ウィンリィが呼んでるね、兄さん」
「そうだな、アル。あと3分以内にはテーブルについてないと、きっと怒られるぞ」
「……そうだね、兄さん」

 一刻も早くテーブルにつかなければならない状況な俺たち。そこで俺は、アルにちょっとした提案をする。

「アル。お前はウィンリィの手伝いをして、機嫌取りと時間稼ぎを頼む。俺はコイツを力尽くでも起こして連れていく」
「分かった。寝ぼけたなまえからの突然のパンチに注意してね」
「ああ、分かってる」

 アルが階段を下りていくのを確認し、俺は再びベッドの上のなまえに向かって、起きろ! と叫んだ。……まあ、起きない。分かってた。コイツはこんな起こし方じゃ起きないんだ。分かってるさ。バサッと音を立てて布団を一気に捲る。朝の冷えた空気に体が晒され、なまえは唸りながら丸くなった。

「……猫か、お前は」
「んん……」

 まだ起きない。思いっきり布団剥いでやったってのに、寝ている。なんだよ早く起きろよ。アルに任せたとはいっても、あくまでタイムリミットは3分。それに今日は出かけるんだ、こんなことで時間をロスしている場合じゃない。

 仕方ねーな。そう小声で呟き、薄く開いていたなまえの唇を自分のそれで塞ぐ。寝ぼけてのパンチが飛んでこないように、両手も纏めて封じた。
 少しすると、さすがに苦しくなったのかなまえが身を捩った。寝ぼけ眼のなまえは目を見開いて驚き、それを確認した俺は唇を離して、軽く頭突きを見舞わせた。

「っ痛……何するのよエド」
「お前を起こすのに、俺とアルがどれだけ時間を費やしたか分かるか? なまえ」
「申し訳ございません」
「さっさと着替えろ、馬鹿」

 両手を解放してやると、目を擦りながら起き上がって大きな欠伸をひとつする。ちゃんと目は覚めている。よし! 俺の仕事は終わった。
 早くアルとウィンリィの所へ行かないと、時間的にまずい。廊下で待っててやるから早くしろよな、と言って部屋を出ようとドアを開けたら、そこにはまさかの人物がいた。

「私がノックしていることにも気付かず、朝から恋人とお楽しみか? 鋼の」
「なんでいんだよ!」
「昨日連絡を入れただろう。事のついでに立ち寄るかもしれない、と」
「……確かにそんな連絡あったような、なかったような…」
「後ろで彼女が固まっているぞ。私は下で先に朝食を取りながら待つとしよう」
「ちょっ…勝手に!」

 文句を言う前に、大佐は階段を下りていった。人の朝食に勝手に混ざってきておいて、俺よりも先にメシを食うだと? 冗談じゃない。俺だって腹が減ってんだ。後ろを振り向いてなまえにもう一度「早く着替えろよ!」と叫んでドアを閉めた。


 賑やかな朝食


「あの、それ兄さんのパン…」
「食べてしまったものは仕方ないだろう」
「あー! 俺のパン!」
「エド、落ちついて」
「元はといえばなまえが起きねぇから…よし、お前あとで覚悟しとけよ」
「え! なんでよ、ちょっと!」


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