「おい、起きろ」
「あう!」
「あーっ、あねき! だいじょうぶかっ!」

 私には兄弟が2人いる。上には暴力的なお兄様、下には元気すぎる弟。今日も私はたった5分寝坊しただけで、兄から頭に拳骨を落とされて目を覚ました。ベッドの脇には、大きな目いっぱいに涙を溜めて心配してくれる可愛い弟。

「隼兄なにすんの!」
「アニキ! あねきにあやまれ!」
「お前は黙れ」
「いでぇええ!」
「ちょっ、隼兄! 朝から鷹を殴らないでよ、泣いちゃうじゃない!」

 兄は隼、弟は鷹。殴られて泣き出した鷹を抱き上げて、隼兄を睨む。隼兄は溜息を吐きながら、私の頭に拳骨を押し付けてぐりぐりと攻撃してきた。

「い……痛いです、隼お兄様…」
「さっさとベッドから出ろ」
「は、はい…」

 しかし、私の服を離さない鷹。あれ? まだ泣いてる。それを隼兄がベリッと勢いよく剥がし、床へ降ろした。

「あねきー!」
「お前は向こう行って早く着替えろ」
「鷹。またお兄ちゃんに殴られる前に、向こうのお部屋に行きなさい」
「お前も早く着替えろ! 遅刻だぞ」
「痛あ!」

 弟でも妹でも、容赦なくゴンゴンと…とにかく痛い。この頭痛のせいで授業に出られずに保健室で眠ることになったら、隼兄のせいにしよう。そうしよう。

「鷹と先にメシ食ってるからな」
「うん」
「着替えて早く来いよ、メシ冷めるぞ」
「はーい」

 隼兄、お母さんみたい。という言葉は心の中にしまっておく。今度こそ微塵の手加減もなく殴られかねないからだ。あ、ご飯ご飯! 今日は卵焼き食べたいって言っといたから、朝ご飯のおかずに卵焼きが並んでいるはず!

「卵焼き!」
「もうないぞ」
「あねき、たべたかったのか!?」

 ご飯を食べようと隼兄たちの所に行ったら、卵焼きは鷹が食べ切ったという衝撃の事実が待っていた。むすっとして食卓につくと、横から小皿が差し出される。

「隼兄」
「……卵焼きでいちいち機嫌悪くされちゃ、朝メシが片付かないだろ」

 要するに、自分用に取っておいた卵焼きをくれるらしい。

「いらないなら俺が食う」
「やだ、食べる!」
「ならさっさと食え」

 隼兄は乱暴だけど、やっぱり優しい。お礼を言って卵焼きを自分の小皿へ移し、朝食を取った。



「おい、まだ食い終わんねーのか!」
「痛! なにも殴らなくても…!」
「俺は殴りたいやつは殴る」
「アニキ! あねきをいじめるな!」
「黙れ」
「いでえぇえ! うあぁあああん」
「いちいち泣くな!」


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