いつも元気で明るくて、部活中にも大声で騒いでいて。仁王の髪引っ張って仕返しに首締められたり、ジャッカルに飛び付いてたり、真田に怒られて柳生に慰められたり……そんな落ち着きのない女が、俺の彼女だ。

「ねー、ブーン太!」
「んー? なんだよぃ、なまえ」

 この暑い中、俺の腰に抱きついているのが例の彼女のなまえ。暑いから振り払ってしまいたいのにそれすら出来ず、それどころか彼女の安心しきった笑顔に見とれてしまっている辺り、俺は相当なまえにやられているらしい。
 ぎゅっと俺に抱きついたままのなまえの手には、1枚の紙。何だ、テストか何かか? 赤点でも取ったか。さてはそれで慰めてほしくて甘えてんな、コイツ。

「ブッブー! 違いますー!」

 …最後の方、声に出てたみたいだ。

「じゃあ何だよぃ? その紙」
「ふふ…じゃーんっ!」

 満面の笑みで差し出されたその紙を、素直に受け取って目を通す。するとそれは確かに赤点のテストなんかじゃなく、もちろん授業参観とかの連絡プリントでもなかった。

 そこに記されていたのは「花火大会」の文字。告知のちらしだった。あぁ、なまえは花火大会に行きたいのか。

「花火大会、ね」
「ね、ね! ブン太! 行こ?」
「…………」

 そんな目で見るな。その上目遣いで見られたら、俺は絶対に断れない。それを知っててやっているんだろうか、コイツは――いや、ただ単に俺の方が背が高いからなのか。何にせよ、断れないのは確かだった。

「分かったよ、行こうぜぃ」
「やった! ブン太だーいすき」
「ん」

 降参して了解の意を示すと、それはそれは嬉しそうに擦り寄ってくる。手櫛で髪を優しく梳いてやりながら、ぎゅっと抱きしめた。


 ――花火大会当日。

 なまえが来ない。遅い、遅すぎる……何やってんだ、なまえのやつ、なまえのやつっ! 俺もう30分待ってるぜぃ? いい加減、まわりのカップルだの屋台のおっちゃんだのからの「まだ彼女来ないのかな、可哀相」的な視線が痛いんだよぃ。
 来たらデコピンだ。これ、なまえが来たら絶対にデコピンしてやる。……なんて言いながらも、アイツの顔を見たら俺はきっとすぐに許しちまうんだろう。

「ごめん、ブン太っ……はぁっ、お母さんに送ってもらったんだけど、道路混んじゃっててっ…これでも急いだの……はぁ」

 やっと来たかコノヤロウ。マジでデコピンしてやるっ…! と思って息を切らしているなまえを見て、硬直。……何、何コイツ。何浴衣なんか着ちゃってんだよぃ。いっつも日焼けしながら俺らのマネージャーやって、大声で笑ってるお前が……何、浴衣とか着てんだよぃ。可愛すぎんだろぃ。

「ブン太ー? おーい、……っん!」

 目の前で手をヒラヒラさせながら俺を呼ぶなまえを、思い切り抱き寄せて不意打ちのキスをする。いやいやいや今のはなまえが悪い、だって本当に可愛すぎんだよぃ。

「んっ……は…ブン、太?」
「馬鹿なまえ。ばーか。ずいぶん待ったんだぜぃ? ……今日は帰れると思うなよ?」

 憎まれ口でごまかした、頬の赤。耳元で低く囁けば、なまえの頬も赤く染まった。


 君の浴衣に目を奪われて


「えっ、え? ブン太、それどういう意味……」
「自分で考えろ」
「そ、そんな」
「……いちいち可愛すぎんだよぃ」



 お題:ΨいちごみるくΨ/沙羅様


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