何事にもこだわらない俺が特定の彼女を作る日が来るなんて、自分でも考えもしなかった。ファンの子達は「何よあの女」なんて言ってきたけど、俺は今、なまえが好きで好きで仕方ないんだよ。

「ねぇ、なまえ?」
「何?」
「キス…していいかな」
「……だめ」

 真っ直ぐに目を見て言われ、ショックで思わず視線が落ちる。すると、くすりと小さく笑うのが聞こえて、白い手がそっと俺の方に伸びてくるのが見えた。
 ほんの僅か一瞬の後、気付いたときには、唇はもう離れていた。

「……っなまえ…」
「あんまり残念そうにするから」

 君からのキスひとつでこんなにも、俺の心は掻き回されて、顔が熱くて心臓も速くて、堪らないのに。……君はまだ、以前女の子を侍らせていたような俺を信用してくれてなんかいないんだろう。俺を心から好きになんて、なっちゃいないんだろう?

「帰ろ、弘」
「………ああ」

 繋いだ手の指先は、微かに冷たくて。


 愛されないことには慣れた
 君の瞳は、唇は、心は。俺を愛してなんかいない


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