「よっ、なまえ!」

 ニッと笑って現れたのは、バネさんこと黒羽春風さん。ひとつ上の先輩だけれど、「バネさんでいいって! 先輩とか堅苦しいしな」とのお言葉に甘えて、あだ名呼びだ。
 六角テニス部マネージャーの私は、バネさんがテニスをしている姿や、天根先輩にツッコミを入れる姿を間近で見る事が出来る。毎日すごく幸せだ。

「なーにニヤけてんだ」
「いたたた!」

 ちょっとだけ頬を緩ませていたら、バネさんに頬を抓られた。

「おお、伸びる伸びる」
「バネひゃん、いひゃいれふ!」
「ん? 何だって?」

 面白そうに笑っているバネさんを軽く睨むが、まったく放してくれそうにない。しばらくそうやって遊ばれていると、やっと頬が解放された。

「もう…痛いです!」
「はは、悪い。つい、な?」

 するとさっきまで抓られてヒリヒリしていた場所に、今度は柔らかい感触が。

「な、せっ……せんぱ、いっ…」
「バネさん、だろ? 今ので機嫌直してくれよ」

 な? と頭をわしゃわしゃ撫でられたが、あまりの急展開に思考がついていかない。私の視界は、まるで熱に浮かされたときみたいにチカチカしていた。


 ぴよぴよ


「……バネさん」
「ん?」
「私なんだか星が見えます」
「? 多分疲れてんだよ、座ってろ」
「……(あなたのせいですよ!)」


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