たった今目の前で、背が高くて強そうな高校生をパンチ1発で倒したのは、私の大好きな人……というか、一応、彼氏。もちろん彼には、掠り傷ひとつない。

「仁」
「ああ?」

 名前を呼べば、機嫌が悪そうな顔で振り向く。ちなみに彼は、無意味にあの高校生を殴ったわけではない。絡まれていた私を助けてくれたわけだ。
 一緒に帰っていたわけじゃなく、待ち合わせもしておらず、ましてや助けを求めて連絡したわけでもない。でも、仁は来てくれた。

「ありがと、来てくれて」
「ああ? たまたまだ、勘違いするんじゃねぇ」
「ふーん?」
「………てめぇ、少しは気をつけろ」
「え?」
「この辺は治安が悪いっつってんだ。1人で歩くな」
「……」

 それはつまり……心配してくれたんだと思っていいのよね?
 駆け寄ってポケットへ突っ込まれた大きな手を引っ張り出し、ぎゅっと握った。態度こそ素っ気ないけれど、この手が振り解かれる事はないって分かってるんだから。


 だいすきよ。


「ケッ、言ってろ」
「仁大好き」
「……」


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