「浩平」
「なんだよ洋平」
「たぶん僕、初めて好きな人が出来た」
部活でダブルス練習をしているとき、洋平は何の前触れもなくぽつりとカミングアウトをした。試合中に何を言い出すのかと驚いた浩平は思わず振り向いてしまい、集中力が削がれて返球をし損ねる。それを見たコーチの華村が、厳しい声をかけた。
「何してるの。洋平くん、浩平くん! ペースが乱れているわ! プレー中の私語は謹みなさい!」
「は、はい!」
「洋平。あとで休憩のときに詳しく話せよ」
「ああ」
どこかぼうっとした洋平を浩平がカバーしながら練習試合を終え、ベンチに戻って汗を拭く。他の部員がラリーをしている音を聞きながら、浩平が口を開いた。
「洋平、そういえばさっきの話」
「ああ……」
「好きな人って誰だよ? 同じクラスか?」
やはり中学生。双子の兄弟に好きな人が出来たとあっては、突っ込んで聞かずにはいられない。わくわくしながら聞くと、洋平が答えた。
「あ、ああ。隣のクラスでさ……たまに話すんだけど」
「隣のクラス? どんなやつだよ」
浩平は隣のクラスの人たちの顔を思い出しながら、洋平の好みの女子なんていたか? と問いかける。すると、練習場の扉が突然開かれた。
「っ、すみません。華村先生はいらっしゃいますか?」
思いの外勢いよく開いたらしい扉から控えめに顔を出したのは、小柄な女の子だった。
「あら、なまえさん。ちょっと待っていてちょうだい、今行くわね」
華村は指導していた部員に少し話をしてから離れ、彼女の方へと向かう。
「……あ!」
「な、なんだよ…浩平」
「なまえ!」
浩平がガタンと席を立つ。その音で気付いたのか、なまえは浩平の方を見て小さく笑い、手を振った。もちろん浩平も、微笑んで手を挙げて応える。洋平も席を立つと、浩平となまえを交互に見た。
「ど……どういう事だよ、浩平!」
「え、どういう事って……何焦ってんだよ、洋平」
そして互いの顔を見合わせて、はっとして互いを指して叫んだ。
「お前――」
「……まさか!」
「浩平の好きなやつって」
「洋平が好きな人って」
「「……なまえ?」」
「ほ……本当かよ、浩平」
「洋平こそ…」
「あちゃー、三角関係ってヤツ?」
「わ、若人くん聞いてたの!?」
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