「なあ、キスしてええ?」
突然の光の発言がこれだ。私が答える前に「ま、拒否権なんか与えてへんけど」と言いながら、すっと光の顔が近付いてきた。ずるい、まだ何も答えてないのに。
「まだ何も言ってないのに」
「……あかんかった?」
「そうじゃ、ない……けど」
なんだか言葉が出なくて途切れ途切れに言うと、再び光が近付いてきて、ちゅっと音を立てて頬にキスをする。一瞬で顔が熱くなるのが分かった。
「な、なっ」
「っ……あかんやろ、それ」
ぎゅっと音がしそうなくらい後ろからきつく抱きしめられて、首が少し苦しい。光の腕を掴んで苦しいと訴えかけたつもりが、それさえも彼を刺激してしまったようで。
「あかん言うたやろ」
「……ひ、かる…苦し、」
「なまえ」
「ん…」
「こっち」
光の声がする方へ顔を向けると、すぐそこに光の顔があって、また唇が触れる。こんなに続けざまに甘いキスばかりされていたら、心臓がもたない。……ほんとに死んじゃう。
「……なまえ?」
「光、すき」
「なまえ」
「大好きよ」
「っ…」
後頭部に手がまわり、さっきまでのような触れるだけのものではない、深い深いキスを受ける。不意打ちな上にこのキス自体にあまり慣れていないせいで、すぐに息は続かなくなり。自分の肺活量のなさを恨んだ。
「……っひ、かる」
「苦し?」
「……ん」
胸を押すと、察してくれたのか唇が離れた。視界に入った光の少し濡れた唇に、顔が熱くなる。恥ずかしくて俯くと両手で顔を支えられ、ぐいっと持ち上げられた。真っ直ぐで真剣な彼の目から、思わず視線を逸らしそうになるのを堪える。
「……阿呆」
「な……あ、あほ…!?」
「あかんやろ、その顔」
そんなに変な顔をしていたのかと多少ショックを受けながら再び俯けば、また顔を持ち上げられて、一言。
「えろい」
「……え?」
「えろいねん、それ」
軽く触れるだけのキスをされ、まだぼんやりとする頭を必死に働かせて、光の言葉の意味を理解する。……これ以上なんてないくらい、私は今真っ赤なんだろう。至極満足そうな顔で光が笑っているのが、何よりの証拠。
「我慢、出来へんようになるやろ」
「……も、元はといえば光が…」
「なまえがかわええからや」
「っ……!」
「次にその顔見せたときは……覚悟しいや」
片腕で息が詰まるほどに強く抱きしめられて、もう片方の手では優しく髪を撫でられる。……私はこの先ずっと、彼から離れる事なんか出来ないんだと思う。
好きで、好きで、堪らない。
溶かす唇
「………光の変態」
「ん、もう覚悟出来たん? ほな遠慮なく」
「え……ちょ…ごめんなさいっ!」
「なななな何してんねん、お前ら! ここ部室やぞ!」
「すまんなぁ、邪魔してもた」
「お前部長として何か注意せぇ!」
「別に悪い事ちゃうやろ」
「こ こ は 部 室 や」
「……そない怒らんでもええやんか」
「あ、もしかして羨ましいんスか?」
「お前は黙れ。そんでええ加減なまえと離れぇ!」
「……なまえは俺のなんで諦めてください」
「別に狙うてへんわ!」
「まあまあ、若い2人を邪魔したらあかん。行くで」
「お前は娘の見合いの付き添いのオカンか!」
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