「……ねぇ」

 部活が休みだから来て、と私を呼んでおいて、特に何をするわけでもなく3時間。ずっと彼の隣に座ったままだ。彼女を部屋に招いて3時間もほったらかしとは……彼は一体何を考えているんだろう。私も我慢の限界だった。

「何?」
「何って……リョーマこそ何?」
「え?」
「用があって呼んだんじゃないの?」
「……ああ…」

 そうだったとでも言いたげな顔をすると、彼は雑誌を閉じて机に置き、再び私の隣に座り直した。じっと見つめられ、その大きな目に吸い込まれそうな感覚に陥る。

「なまえさ、」
「な、何?」
「……何が欲しい?」
「へ?」

 あまりに唐突な問いかけに、気の抜けた返事をしてしまう。

「だから、何欲しい?」
「なんで?」
「……今日」
「?」
「ホワイトデー」
「……あっ」

 あのリョーマが、ホワイトデーを覚えていてくれたなんて……私がバレンタインデーのプレゼントを渡したときだって、「これ、何」とか言ったくせに。ちゃんと考えててくれたんだ。

「ねぇ。何がいいわけ?」
「えっと……そんなに急に言われても思いつかないよ」
「……ふーん」

 彼はこちらを見つめていた目を少し伏せ、くしくしと擦りながらカルピンを抱きしめた。カルピンはいつものように「ほあらー」と鳴きながら、リョーマに擦り寄っている。
 私はといえば、欲しいものを考えていた。よく考えてみたら、今はそこまで欲しいと思うものもないかもしれない。

「なまえ」
「ん? ……あ」

 リョーマが読んでいた雑誌をぺらぺらと捲ってみると、最後の方に新作のお菓子の紹介ページを見つけた。これは…! と思い、雑誌をリョーマの顔の真ん前に突き付ける。

「何。いきなり」
「これ! これがいい!」
「……どれ?」
「このお店のチョコ!」

 目をつけたお菓子を指しながらリョーマに見せると、「ふーん」と口角を上げて笑う。そして急に立ち上がり、私の手を引いた。

「わっ! どうしたの?」
「え、行かないの?」
「どこに?」
「食べたいんでしょ、これ」
「あうっ」

 手を引いたまま部屋を出た所で彼が急に立ち止まるものだから、思いきり背中にぶつかってしまう。なるほど、お店に連れていってくれるのね。

「なまえ」
「へ?」

 名前を呼ばれてリョーマを見ると、先程彼の背中にぶつけた鼻の頭にキスをしてくれた。こんなことをしてくれるの、珍しい。驚いて目を見開くと、彼の口角が意地悪く上がった。ぽんぽんと頭を撫でられ、再び腕を引かれる。

「っリョーマ、」
「早く行くよ」

 振り向かずに言った彼の耳が少し赤く見えたのは、言わないでおこう。


 Happy WhiteDay!!


「なまえ、次の角曲がったら走るよ」
「え? なんで?」
「……親父がついてきてる」
「あ、本当だ…マスクしてるけど変装のつもりかな……」
「はぁ…」


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