今日は若が、なんだかイライラしているようだ。部活中も、跡部先輩の言う事にも上の空だし、侑士先輩がからかっても何の反応もなかった(おかげで侑士先輩のほうが心なしかしょんぼりしていた)。何かあったのかな。

「若?」
「……何だよ」
「ええと……怒ってる?」
「怒ってない」

 会話が全て文章でなく単語で返ってくる。そんなに怒……ああ、疲れているのかな。

「若」
「……今度は何だ」
「疲れてる?」
「……」

 やっぱり。でも、若は顔や表情には出さないようにしてるよね。……だけど全部、態度や言葉に出ちゃってる。そりゃあ最近になって練習量増えたし、休みは減ったし。土日もたくさん練習試合組んであるし……当然、だよね。

「若」
「何だよ、さっきから」
「あーん」
「は?」

 今若の顔の真ん前に突き出したのは、リンゴ味の飴。私のおやつのために持ってきていたんだけれど。怪訝そうに飴と私を見比べる若に、にっこり笑って言う。

「疲れたときは、甘いもの」

 すると、若が突然いたずらを思いついた子どものように、ニヤリと口角を上げる。嫌な予感がした次の瞬間、飴より先に奪われたのは、唇。

「疲れたときは甘いもの、なんだろ?」
「……若、今」
「もらっといてやるよ」

 私の手から飴を奪って口の中へ放ると、彼はラケットを持ってコートへと戻って行った。


 甘い甘い林檎はいかが?


「若が……ふ、ふ…不意打ち…!?」

「………今の見たか、樺地」
「ウス」
「見せつけてくれるじゃねぇの、アーン?」


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