「もしもし、なまえー?」
「んん……何?」
「俺明日から跡部の別荘で強化合宿だからさー。5日くらい会えないけど待っててな!」
「んー…わかっ、た……」

 電話のやり取りは、履歴によると5日前。

 あのとき寝ぼけていてよく聞いていなかったけれど、合宿とか言っていたような…?
 結局寂しくて堪らないけれど、練習中だったら悪いし電話も出来ない。ならば夜ならと思ったが、練習で疲れてメールすら見ることなく休んでいるだろうと考え直し、やめた。こうして連絡すら出来ないまま、時間が経ってしまったのだ。

「ふぁ……ねむ…」

 不意に漏れる欠伸。実はこの5日、まともに眠れていなかった。寝る前には必ず岳人と電話をして、おやすみを言い合ってから眠っていたので、それがなかったこの5日間はなんだか寝付けなかったのだ。……しかし、体は眠くて堪らない。

「ん……今なら眠れそうかも……」

 そんな独り言を残し、ぱたりと眠ってしまった。


 ――何時間寝ていたんだろう。

 外はすっかり真っ暗で、手は携帯を開いたまま握りっぱなし。そして隣には、見慣れたおかっぱ頭。……え? おかっぱ?

「が、くと…?」
「……ん、なまえ…」

 恐る恐る声をかけると、寝言で私を呼びながら寝返りを打つ彼。あれ? 私まだ、夢でも見ているのかな。岳人が帰ってくるのは、確か明日のはず。今頃跡部さんの別荘で寝ているはずなんだけどな……。

「おー、なまえ。起きてたのか」
「え……本当に、岳人?」
「は? 何言ってんだよ、当たり前だろ! 寝ぼけてんのか?」
「な、何で? 帰りって明日じゃないの?」
「ちょっと予定が変わってな。青学との練習試合が明日にずれたんだよ。だから早めに戻ってきたんだ」
「……ふーん…」
「クソクソ、なまえ! 嬉しくねーのかよ! 昼間だってせっかく直接家まで来たのに、ぐっすり寝てるし!」
「………あ」

 だから、かな? ぐっすり眠れたの。夢の中で、岳人が手を繋いでくれている気がしていて、それで安心してよく眠れたし……そっか、ずっと傍に居てくれたんだ。

「ありがと、岳人」
「何が?」
「ううん、何でもない。お礼言いたかっただけ」
「変ななまえー……俺まだ眠いんだけど。もうちょい寝ていいか?」
「いいよ」
「ん、サンキュ」

 そう言って私の額に軽くキスをすると、岳人はすぐにまた寝息を立て始めた。
 その少し幼い寝顔さえ、私にはこんなにも愛しいの。


 羊がいっぴき、あなたがいない
 それじゃ眠れないの


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