私は真選組屯所までの道を、全力で走っていた。ある人へ会うためだ。

「土方さん!」
「あァ? なまえじゃねェか。何だよ、今は仕事中だ。遊べっつうんなら後にしやがれ」
「違っ、遊びじゃないです!」
「……じゃあ何だよ」

 煙草を灰皿に押し付けながら、土方さんが“面倒だ”という顔でこちらを向く。その鼻先に1枚のプリントを突き付けると、彼はそれを怪訝そうに見つめた。

「面接練習プリント? 何だこれ」
「フォローの達人である土方さんに、面接練習の回答例をお教えいただきたく存じ申し上げ奉ります」
「日本語おかしいぞ」
「もういっぱいいっぱいなんです……そのプリント書くために2日も徹夜したのに、いざ模擬面接を受けたら全部書き直しだなんて! 先生は鬼です!」

 相当切羽詰まっていると理解してくれたらしい土方さんはとうとう折れ、仕方なく面接練習の相手を引き受けてくれた。何度もお礼を言ってから向かい合って練習をしていると、突然襖が開いた。

「……何やってんでィ、なまえ」
「あ。総悟」

 入ってきたのは、私の恋人である総悟だ。そしてその顔は、愛想のかけらもなく真顔だった。どうやらだいぶ怒っているようで、土方さんが深い息を吐く。

「総悟。一応先に言っとくが、俺はなまえの入試の面接練習をしていただけだ」
「土方さんには聞いてやせん」

 総悟は私から目を離さない。もしかして総悟、妬いてる……? とニヤけていたら、腕を引かれて別室へと連れていかれた。

「そ、総悟?」
「……なんで俺じゃなくて、土方さんの所なんでィ」
「え?」
「そんなに俺じゃあ頼りねェってのかィ?」

 どこか弱々しい声で低く囁かれ、体が固まる。自然と沈黙が続き、とにかく謝らなければと顔を上げた。

「あの、総悟――」
「俺が全部教えてやる」

 手からプリントを奪われて、噛み付くようなキスが降ってくる。驚いて目を見開くと、彼はニヤリと笑みを浮かべていた。

「こりゃァ今夜は徹夜だ。とりあえず山崎にでも手伝わせまさァ」
「え」
「隊長、これ…」
「おう山崎、ちょうどよかった。お前も手伝え」
「でも俺この後、副長に呼ば――」
「暇だよな、山崎」
「……はい」


 徹夜の面接練習


「ふう。これで面接はバッチリでさァ!」
「いや、一仕事終えたみたいな顔してるけどほとんど山崎さんが書いてくれたよね」
「いいんだよ、なまえちゃん。慣れてるから……」
「本当にすみません! 私のために引き止めてしまって…」

「……お前は何やってたんだ、あァ!?」
「あ、副長ォ! いやコレは!」
「山崎ィイ! てめ……ん? なまえ、お前は入試頑張ってこいよ。……待て山崎ィ!」
「ギャァアア!」


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