立海のテニスコート入口に、ジャージを来た小さな女の子が立っていた。ふと、コート脇に落ちていたボールを拾い上げると、軽く撫でながらふわりと微笑む。それを真っ先に見つけたのは、2年生部員の切原赤也だった。彼は恐る恐る、見覚えのある小さな少女に声をかける。

「……あれ、なまえ…先輩?」
「あ、赤也だ」

 微笑みながら振り向くと、少しウェーブのかかった髪が揺れる。はい、とボールを手渡された赤也は、そのボールをジャージのポケットに入れた。

「あの、なまえ先輩」
「ん?」
「なんでテニスコートに居るんすか? これから部活の時間っすよ?」
「そうね、部活ね」
「え?」

 意味が分からないまま、赤也は部室へと向かった。……今日はミーティングに遅刻したため、真田からはこっぴどく怒鳴られたが。
 少しして、部員たちがコートへ出ていく。そのとき、なまえに気付いた仁王が声をかけた。気になったのか、他の部員も仁王に続いて寄ってくる。

「なまえ? なんでここに…」
「うん、ちょっとね」
「帰宅部じゃなかったんか?」
「違うよ」

 仁王の問いかけに答えたのは、なまえではなく幸村だった。

「彼女は俺たちのマネージャーだよ」
「……は?」
「なまえは今日から、立海男子テニス部のマネージャーになるんだ。掃除、洗濯……これからは、なまえが全てこなしてくれる」
「そういうこと」

 幸村が綺麗に微笑んだ隣で、なまえが頷く。部員たちから喜びの声が上がる中で、幸村がもう一度ゆっくりと口を開いた。

「それから……ひとつ言い忘れていたけれど、なまえは俺の双子なんだ。皆、よろしく頼むよ」
「……ふ、たご?」
「そう、双子だ。ああ、なまえ。部室のどこに何があるかとかはジャッカルに聞いてくれ。彼に頼んでおいたから」
「うん、分かった」

 幸村がなまえの頭を撫でてやると、彼女はジャッカルの所へと走っていった。後には、にこやかになまえを見送る幸村と、呆然と立ち尽くす部員たちが残った。


 え……あれとこれが双子?


「まさに目の上のたんこぶじゃな」
「でも確かに髪とか似てるぜぃ」
「……仁王、丸井。練習しないのか?」
「「!!」」


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