ある日、四天宝寺中男子テニス部に1人の元気な女の子が現れた。大勢のマネージャー希望の女の子たちの山を掻き分け、小さいながらにズンズンと歩くその女の子は、唯一テニス部メンバーから認められた女の子である、なまえ。つまり、正式なマネージャーだ。ちなみに今日が初仕事の日である。

「すんません、通してもらえます?」
「な、何よあの子!」
「白石くんに近寄らんといて!」
「だからー……通して……」

 部員の元へ行かせまいと自分に向かって逆流してくる女の子を必死に掻き分けて手を伸ばすと、その手をグイッと誰かに引かれた。一気に女の子の山から引き抜かれる。

「っぷは……助かったわ」
「自分、小さすぎるんとちゃう? 牛乳飲みや、牛乳」
「む……蔵ノ介先輩が大きすぎるんちゃいます? 千歳先輩や師範とか…あれ? 千歳先輩初っ端から居らんし……」
「なまえはんは女性や。男のワシらより小さいんは普通やで」
「師範…! あかん惚れてしまいそう」

 そんな会話をしている彼らには、周りのファンたちの悲鳴のような声など全く聞こえていない。すると、女の子の山の中から2人の男の子が現れた。
 1人は中学生どころか、もはや普通の学生とは思えないほどの背丈。もう1人は冷めた目をしていて、女の子たちの甲高い黄色い声に耳を塞いでいる。

「……うっさ…」
「ん、新しいマネージャーば入ったと? 名前は何ね?」
「なまえです……って、この前も名前言いましたよね? 千歳先輩」
「………確認たい、確認」
「忘れてたんですね」

 少し落ち込んでいると、冷めた目をした彼が前に出て、なまえの頭を小突いた。

「痛!」
「なんやねん、お前」
「何ってマネージャーやん」
「……ベラベラ喋んなや、恥ずいわ」
「ごめんねひかるくん」
「棒読みやんか」

 わざとらしく溜息を吐く彼を見て、白石が再び口を開く。

「なんや? 自分らずいぶん仲ええなぁ。財前が女の子とそない喋るん珍しいし……知り合いなん?」
「知り合いちゃいます」
「なっ、そらないやろ光! 双子です、双子! 光と私!」
「………」
「なー、光!」

 なまえが抱きつくと、光は少し表情を歪ませた。周りで部員たちや女の子が驚いているのは、言うまでもない。

「……ええ加減離れぇや」
「冷たいなぁ、光は」
「なまえが暑苦しいだけや」
「そないキッパリ言わんでも」

 言い合いつつもなまえを無理には退かさないあたり、一応仲は良いのだろう。

「財前、双子なんておったんか…」
「これからマネージャーとして、皆さんよろしゅう!」
「ええから早よ離れぇや」


 え、ほんまに双子なん?


「自分ら温度差激しい双子やなぁ」
「あ、なまえやー! ワイもなまえと遊ぶー!」
「金ちゃん、遊びに来たわけやないで? 部活や」


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