「なまえはテニスできるん?」
「へ?」

 部活の休憩時間に、白石がなまえに問う。気の抜けた返事をするなまえに、白石が苦笑して問い直した。

「せやから、なまえはテニスはできるんかって聞いたんや」
「……まあ…下手くそですが」
「ほなやってみぃ」

 隣で話を聞いていた謙也からラケットを渡され、コートへと押し出される。白石は適当に3年生の部員を1人呼び、なまえにはサーブするように命じた。

「軽くでええで」
「はーい」
「……ええんやろか」
「ん? 財前、何か言うたか?」
「相手。ええんやろか…」
「どういう意味や?」
「レギュラー部員ならまだしも……普通の部員に、あいつのサーブは返せへん……と、思いますけど」

 白石がなまえに目を向けたときには、すでに1本目のサーブが決まっていた。コートにはボールの跡がうっすら残っている。
 相手の部員は反応できず、どういうことかと頭上に「?」を散らしていた。女子のサーブなんて軽く返せるだろうと思っていたのだから、無理もない。

「すみません、先輩! かなり力は抜いたつもりやったんですけど……知らんうちに力んでしもたんやろか?」

 グリップを何度か握り直し、なまえもまた違った意味で頭上に「?」を散らしていた。それを見た光は口角を上げて、自分のラケットを手に取る。

「……こういう意味っすわ」

 そしてなまえが立つコートに入り、相手をしていた部員に代わって位置につく。サーブの体勢に入って、ボールを弾ませた。

「なまえは俺の自主練相手や」
「あれ、次は光なん?」
「手ぇ抜いたらしばくで」
「本気出したら勝ってまうやん、私」
「……阿呆。そないな心配せんでもきっちり負かしたるわ」

 光が放ったサーブは、試合で見せるような本気のサーブ。それをなまえは難なく打ち返す。

「なんや、弱くなったんちゃう?」
「よ…! 光に言われたくない!」
「何か言うたか、チビ」
「チビ…!? この…ピアス!」
「なんやねん、ピアスて」

 言い合いとともに続くラリーは、もう5分も続いていた。お互いに譲らず、ポイントも取らせない。謙也は驚きつつ、あることを思いついた。

「なあ、白石」
「なんや」
「あいつらでダブルス組ませたら、おもろいんちゃうか?」
「やらせてみよか」

 白石はなまえと光のラリーを止めさせ、即席ダブルスを組むよう指示した。なまえは乗り気だが、光はまた微妙な顔をする。

「……なんでなまえと組まなあかんねん」
「ええやん、頑張ろ?」
「足引っ張ったらしばくで」
「それは私の台詞やで」
「それより相手は?」
「せやなぁ。遊び程度に組むだけやし……なまえは女や、ハンデも欲しいやろ? 言い出しっぺの謙也と2対1でどうや?」
「なっ…」

 謙也は言い返そうとしたが、それを遮るように白石が「…ええな? 謙也」とにっこり笑ったため、溜息混じりに頷くことしかできなかった。その横では、光がニヤリと笑っている。

「こいつを女なんて思わん方がええ。後悔しますんで」
「……光、あんた私を何やと思ってるん」

 この2人が喧嘩のようなやり取りをしながら試合をし、意外にも良いコンビネーションで謙也を苦しめたのは、また別の話。


 双子ダブルス


「自分、足遅いな。ほんま」
「え、何? 足細い? やだありがとう光」
「……もうええわ、阿呆」
「あ、ごめん! ごめんな光! うそうそ!」


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