「あー、あっついなぁ」

 そう声を上げたのは、金ちゃん。確かに今日はとても暑くて、皆休憩時間でもないのに「ドリンクの用意まだ?」とか「タオルくれ」と言いに来る。こんな炎天下では、少し動いただけでも汗が吹き出すし……無理もないだろう。

「金ちゃんも皆も、暑そうやなあ」
「なまえー! ワイ、あと100本で休憩やでー! ドリンク用意しといてなー!」

 白石が考えた今日最初の練習メニューは、暑くて気が散りやすい中でも集中力を付けるためにと、壁打ち500本だ。終わった者から最初の休憩に入ることができる。

「分かったー! 頑張るんやでー!」
「当たり前やー! 先に終わったモン勝ちやでー!」

 きっと皆つらいだろうに。そんな中で金ちゃんは、早くもあと100本で休憩らしく、しかも大声で会話をする体力まである。なんて元気な子なんだろうか。…と考えながらドリンクを作っていたら、後ろから頭を思い切り小突かれた。

「いった!」
「なんや、ドリンクまだなん?」
「……光」
「終わったんやけど。500」
「え、もう? 金ちゃんが一番に戻ってくるもんやと思ってた」

 我が双子ながらようやるなと思いながら、光のドリンクを用意しようと新しいボトルに手を伸ばす。すると隣からスッと腕が伸びてきた。

「光?」
「待てへん、お前作るん遅いわ」
「ちょ、それ私の麦茶やで!」
「ええやろ、別に。……なんで自分だけ自販機で麦茶買うとんのや」

 私の頭はがっしりと片手で掴んで押さえられ、麦茶がごくごくと光の喉を通る音だけが聞こえてくる。……オサムちゃんや部長たちの目をかい潜って、校外の自販機まで買いに行ったというのに。しかも当然ながら自腹だ。
 簡単に押さえ込まれるような自分の身長のなさと、麦茶を奪い返せない自分の腕の短さを悔いる。双子なのに、何故こんなにも体格が違うのか。

「くそっ…! 今すぐ新しい麦茶買うてこい、光!」
「嫌や」
「私には部員のドリンクを作るという、蔵ノ介先輩から課せられた大切な任務があんねん。せやから光が買うてきて」
「阿呆か」
「飲んだの光やないの!」

 と言い合っていたら、真横から複数の視線を感じる。ワイのドリンクはー? と眉を下げた金ちゃんをはじめ、壁打ちを終えたほとんどの部員が戻ってきていた。

「あっ」
「……財前がなまえの麦茶飲みよった」
「え、いつもですよ」

 目を丸くしている蔵ノ介先輩に言うと、さらに意外そうな顔をする。

「……自分ら、いくら双子でも気にならへんの? その歳になって」
「何がです?」


 間接、キス


「こいつと間接キスしたところで、何ひとつ感じることなんかないっすわ」
「……あの、女としてそれはそれで寂しいんやけど」
「第一、双子やし」


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