今は一応、なまえと一緒にテスト勉強中。俺はもう寝たいんだけれど。一向に進まないペンと、真っ白なノート。それをぼんやり横目に見ながら、シャーペンを回す。それを見た彼女が、こっちを向いた。

「……千種」
「何」
「ちーくん」
「……」

 もう飽き始めているらしいなまえは、疲れたと叫んで俺の横で大の字に寝転んだ。やむを得ず中断された勉強会。「お願い千種、一緒に勉強して!」とか言いながら頭まで下げるから、わざわざ来てやったのに。

「ねえ、千種」
「……何?」
「もうすぐテストだね」
「それが何」
「えっと……」

 何故か今更恥ずかしがり始めたなまえの言葉を促す。彼女のことだから、飽きたからってまた微妙なことを言い出すんだろうと予想していたけれど、ずいぶん変わった答えが返ってきた。

「満点取れたら、キスして」
「…………は?」

 何それ、と溜め息混じりに言う。すると、ぼそぼそと言葉にならず聞こえない小さな声が返ってくる。最後に「嫌ならいいから!」と真っ赤になりながら付け足した。
 ……本当、そういうの困るのに。

「だったら、」
「え、え……っ」

 距離を一気に詰め、さらに顔を赤くして焦る彼女に口付ける。自分でもこんなことをするなんて驚いたし、こんな風に意識するのは面倒なんだけど。

「今しちゃったから。必ず満点取って」

 わかった? と目を細めて聞くと、努力します…という弱々しい声が返った。



「で、いつまで固まってるの」
「だって、びっくりして」
「俺も…驚いてるけど」
「……本当だ、いつもより目が開いてる」


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