今夜は任務が早く終わった。帰宅するなり、ベッドへ思い切りダイブする。ひんやりとしたシーツは気持ち良いけれど、この季節にはまだ少し冷たく感じる。しばらく枕に顔を埋めた後、隣にあったもうひとつの枕を抱きしめる。そのままぼんやりしていると、部屋のドアが開いた。それが誰かなんて、確認しなくても分かる。

「千種」
「……帰ってたんだ」
「うん、今日は任務が早く片付いたの。千種こそ早いね」
「今日は犬が大人しかったから……無駄な仕事が増えずに済んだ」
「そうなんだ。珍しい」

 あの犬が大人しい姿なんて、想像できないけれど。抱えている千種の枕に顔を埋め、くすくす笑う。すると、ぎしっと音を立ててベッドが沈む。隣に千種が座ったようだ。

「……で。なまえはなんで俺の枕抱いてるの……寝たいんだけど」
「ああ、これは……千種が帰ってくるまで、寂しくて…つい…」

 隣に枕を返すと、ぽふっと千種が寝転がる。それを確認して、足元の毛布を引っ張って2人を覆うように掛ける。千種に右半分、私に左半分。いつも布団は平等に半分ずつ。

「……千種」
「何」
「………」

 後ろから千種に抱きつけば、小さな溜息が聞こえる。

「なまえ、寝られない」
「私だって寝られない」
「………」
「ねぇ千種、寒い」

 嘘。布団の中だし、さっきつけた暖房も効いている。寒くはない。けれど、せっかく久々に2人揃って眠れるんだから。少しだけ、甘えさせて。

「……めんどい」

 そう言いつつ振り向いた千種は、私を抱きしめてくれた。どんどん落ちてくる瞼に抗えずに目を閉じたとき、私よりちょっと冷たい手がぎこちなく頭を撫でてくれたのを感じた。単純な私はたったそれだけで、充分幸せになれてしまうのだ。


 ここが一番居心地がいいの


「千種あったかい」
「寝たんじゃなかったの……」
「ねえ、もう1回だけ頭撫でて」
「……めんどい」


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