軋みながら重い扉が開くと、中では愛しいなまえが眠っていた。帰りが遅くなるため先に休ませていた彼女にゆっくりと近付き、起こさないようにそっとベッド脇に座る。スプリングがぎしりと鳴った。

「……なまえ」

 髪を一房掬って指を通すと、さらさらと流れて指の間を抜けてゆく。その感覚に口元を緩ませる。

「ん……つ、な…」

 途切れ途切れに名前を呼ばれ、彼女の夢の中まで自分が占めているのだと思うと酷く満足した。

「ごめんな」

 なかなか、会えないな――俺が帰る頃にはなまえは眠っていて、逆に起きる頃には俺はもう出ている。恋人であるなまえは俺の職業柄狙われてしまう可能性があり、1人で外を歩かせるわけにもいかず、部屋に籠りがちで寂しい思いばかりさせているだろう。こうして頬に伝う涙の痕を数えるのも、いつしか日課になってしまった。

 俺にできることといえば、寝顔に朝晩キスをして、髪を撫でてやる程度。あとはせいぜい、すでに眠ってしまっている彼女を抱いて眠るくらいだった。

 なまえはどう思っているだろう。ゆっくり会うこともできず、戦ってばかりの俺を。マフィアのボスである俺の手を、握り返してはくれるのだろうか。
 なまえの隣に身を横たえ、その手を握りしめる。小さく白い、か弱い手だ。

「……ツナ…」

 まるで赤ん坊が母親の手を握るように、弱々しくもしっかりと握り返す小さな手。心地良い力加減に目を細めると、手を繋いだまま片手でなまえを抱き寄せ、キスをする。

「おやすみ」
「……んん…」
「愛してる」

 小さく呟いたその言葉は、彼女に聞こえていたかは分からない。でも、ありったけの愛を込めて、確かに囁いた。



「………ん、ツナ…?」
「今日は仕事休みだから。傍にいるよ」
「本当?」
「ああ……ん? 電話…」

『10代目! 起きてください! 今日は大切な会議が(ブチッ)』

「………ツナ、お仕事…」
「今日は休みだから」
「……」


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