ほんとに行っちゃうの?――なまえは小さな手で俺の着物の裾をギュッと掴んだ。そんな顔すんなコノヤローって髪ぐしゃぐしゃに撫でてやりたいけど、今回は依頼が依頼だ。掠り傷ひとつなく帰ってくるなんて、約束は出来ない。

「仕方ねェだろ、仕事だ」
「でも」

 なまえが言葉を詰まらせる。誕生日くらいって言いてェんだろ。お前が言いたい事くらい分かってる。俺だって誕生日くらい休みてーよ。だけどな、お前も神楽も新八も定春も、俺が食わしてやらなきゃ暮らしていけねェだろうが。一応俺が年長者だし。いや、銀さん全っ然若いんだけどね?

「大丈夫だって。お偉いさんの屋敷から盗まれた書物を、奪い返すだけの話だ」
「でもきっと見張りがいるわ」
「そりゃあな。まあ、ちょっとくらいは戦う事になるだろうな」

 そう聞いた途端、大きな目に涙が溜まる。抱きしめてやりてェところだが、そろそろ行かねーと帰りが遅くなっちまう。両手の親指でなまえの頬に伝った涙を拭いて、行ってくる、と家を出た。

 今日はこんな面倒な仕事早く終わらせて、すぐに帰ってなまえとラブラブに過ごして寝る。完璧すぎるプランだ。パーフェクトプランだな。むしろ俺がパーフェクトだ。そんな事をブツブツ言いながら、書物を盗んだ奴の隠れ家まで向かった。


 ――結果を言おう。斬られた。

 書物取り返して、さあ帰るかと振り返ったところで斬られた。完全に油断していた。いや、そこはまあ銀さんだからギリギリ躱せたんだけどね! 全然掠っただけなんだけど! 傷は浅いが、コレ見たらなまえは確実に泣くなァ……。

 書物を依頼者の屋敷に届けて報酬を受け取り、急いでなまえとその他数人が待つ万事屋へと向かった。

「銀ちゃん! 何やられてるアルか!」
「本当だ、すぐに手当しなきゃ!」

 あっという間に神楽と新八によって包帯でぐるぐる巻きにされ、大袈裟な…と溜息を吐きながら顔を上げると、大粒の涙を流すなまえと目が合った。

「なまえ」
「け…が、やっぱり…っ」
「泣くなって」

 なまえは小さな手を握りしめ、銀さんは馬鹿よと呟いた。そうだな、俺は馬鹿だ。てめーの女1人笑わせてやる事すら出来ねェ。誕生日だってのに危険な仕事引き受けて、恋人に心配かけて、悪ィと思ってる。でもよ、生きて帰ってきたからよォ。それでチャラにしてくんね? って笑って言ったら、馬鹿! と泣きながら傷を殴られた。

「誕生日にまで、どれだけ私が心配したと思って…」
「……わかってるよ」

 そんな顔すんなコノヤロー! と、今度こそ髪をぐしゃぐしゃに撫でる。なまえは少しだけムスッとした後、眉を下げて笑った。なまえを膝に乗せてキスをして、笑い合って、またキスをする。よっしゃ予定通りの甘い雰囲気! と思った瞬間、奥から新八の「ケーキ焼けましたよ」という声がして、なまえは手伝いに行ってしまった。

 そして俺は、1人残された。


 ほろ甘い誕生日


「新八お前アレだ。KYだ、空気読め」
「そうヨ新八。私せっかく黙って待ってたのに。空気の読み方が分からない、KYWネ! お前なんか」
「邪魔したのは謝りますけど、そこまで言われなきゃいけないんですか僕。っていうかKYWって何」


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