カチャカチャという金属音で目が覚める。ソファからおもむろに体を起こし、眠い目を擦りながら音のする方を見る。そこには、いつもと同じ作業服で、いつもと同じ飴を舐めながら、いつも通りにモスカの整備をする彼の真剣な後ろ姿があった。
やっぱり好きだなぁとぼんやり実感して、再びソファへ沈み込む。
だいぶ眠ってしまったのだろう。辺りはすでに薄暗く、作業中の部屋には明かりが点いていた。今度こそ起き上がると、体から滑り落ちていく薄手の毛布。……掛けてたっけ。
「起きた?」
不意に声をかけられて、毛布を掛けてくれたのが彼だったのだと気付く。まだはっきりしない頭で「毛布、ありがとう」と答えると、彼は作業をの手を止め、新しい飴を手にしてこちらへと歩いてきた。
「ん」
差し出されたのは、まだ袋を開けていない飴。開けてほしいのかと解釈して、飴を受け取って袋を開けて返す。するとその飴は、そのまま私にもう一度差し出された。わけが分からずに彼を見上げると、薄く開いていた口へと突っ込まれる。
「んっ……スパナ?」
「何」
「スパナが舐めるんじゃなかったの?」
「舐めるよ、もちろん。ソレはウチの飴だ」
そう言うと同時に突然口元から飴が奪われていき、唇を塞がれる。少し開いた唇から、ざらついた舌が入ってきた。
「……ん」
「ごちそうさま」
私の頭を一撫でし、そのままさっき取り上げた飴をくわえて作業に戻る。
スパナはずるい。こんなことを、まるで子どもが小さないたずらをするみたいに、平気な顔でやってのけるんだから。
甘い飴(溶けるいたずら)
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