「銀ちゃん、銀ちゃん!」
「んー……何だー、なまえ」
「今日はデートって言ったでしょ!」
「……昨日の仕事で銀さんすげー疲れてんの。今度ちゃんと連れてってやるから、今日は寝させてくれー…」

 銀ちゃんは布団の中へと、もぞもぞ潜っていく。えー! と不満の声を漏らしながら、布団の上から銀ちゃんに跨がってみたり、布団を捲って鼻を摘んでやったりして、なんとか起こそうと試みる。疲れているのは分かっているが、やっぱり久々のデートなのだ。潰れるのは寂しい。

「ねぇ、銀ちゃんてば」
「何だよ……あ、もしかしてなまえちゃん寂しいの?」
「なっ」
「そうかそうか」

 ニヤニヤしながらこちらを見るので、なんだか恥ずかしくなって枕を顔面に投げ付けた……はずだったんだけれど、枕は片手で簡単に受け止められ、もう一方の手でぐいっと引っ張られる。

「!」
「寂しいんだろ? なら、こうしてりゃいいじゃねェか」

 布団の中で、ぎゅっと銀ちゃんに抱きしめられる。

「そうじゃなくて、どこかデートに行きたいの!」
「ん? じゃー……なまえ、目ェ閉じてみろ」
「え?」
「いーから」

 言われるままに目を閉じると、銀ちゃんは囁くように話し始めた。

「2人でデートしてるとこ、想像してみろ」
「? うん…」
「お前遊園地行きてェって言ってたな。じゃあ、そこ行こうぜ」

 銀ちゃんが、お化け屋敷とかジェットコースターとか、色々なアトラクションの話をする。ただ頭の中で考えているだけなのに、なんだか楽しいかも。

「……で、やっぱ最後は観覧車だな。ベタだけど」
「うん」
「………なまえ」
「え?」

 不意に名前を呼ばれて反射的に目を開き、銀ちゃんを見上げる。すると、突然頬にキスされて思わず目を見開く。ぱちぱちと瞬くと、ニッと笑った銀ちゃんと目が合った。

「楽しかったか? お嬢さん」

 なんて洒落た口調で言うものだから、思わず笑ってしまう。そんな銀ちゃんに私も、気取った口調で返してみた。

「えぇ、とっても」

 たまにはこんなデートも、悪くないかな。


 きれいなきれいな絵空事


「でも、次の休みはちゃんと本物の観覧車でキスをしてね?」
「……かしこまりました」


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