いつも俺の前の席で、爆睡してるヤツ。今日はまだ一度も、起きて授業を聞いているのを見ていない。なんて女だ。……とか頭の中でブツブツ言いながら見てたら、がくんと手から滑り落ち、ガンッと鈍い音を立てるそいつの頭。

「痛っ…」
「…………またかよ」

 後ろから後頭部を赤ペンで小突く。額を擦りながら振り向いたこいつの顔は、真っ赤だ。周りはくすくす笑ってるしな。そりゃ恥ずかしいだろうよ。

「何よ、榛名のばか。起こしてくれたっていいじゃない」
「なんでだよ、俺は関係ねーだろ」
「こら、そこ2人! お前たちもう廊下に立ってろ!」
「なんで俺まで!」
「連帯責任だ」

 何の連帯責任なんだ。席が前後だから、とか? 絶対おかしいだろ。それで隣でこいつはまた何ニヤニヤしてんだ、気持ちワリィな。

「ふふふ」
「んだよ、笑ってんなよ。大体お前のせいで立ってんだかんな、ここに」
「うん。でもさ、嬉しくて」
「あ?」

 次にこいつが発した言葉の意味を理解するのに、俺は物凄い時間がかかった。


 だって今、私と榛名、2人っきり。


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