……あ、居た。

「いらっしゃいませ! 焼き魚定食ですね? 少々お待ち下さい」
「おーい、姉ちゃん! こっちも注文頼むよ!」
「はい、ただいま!」

 俺の行きつけの定食屋さんで今日も元気に働いている、いつも笑顔なあの子。まだ、俺の注文を取ってくれた時にしか話したことがない。もう何度もパトロールに託つけて、こうして見に来ている。彼女が働いている曜日も、気が付いたら把握していた。お店に入って食事もしていきたいところだけど、最近攘夷浪士の活動が目立つようになり、取り締まりに忙しくてなかなか入れない。

「焼肉定食お待たせいたしましたー!」
「なまえちゃーん、刺身定食はまだかい? この後急ぎの用があるんだが…」
「申し訳ございません、もう少々お待ち下さい」

 謝ってる後ろ姿も可愛いな……何考えてるんだろ俺。ってか店の前でこんなウロついてたら、ストーカーというか不審者だと思われるじゃないかァア!

「いらっしゃいませー」
「……えっ?」

 女性店員の甲高い声に我に返ると、俺は無意識に店内に入っていた。あれェエ!? 俺パトロール中じゃなかったっけ、何で店に……!

「こちらへどうぞー」
「え、あ、ハイ」

 いやいや俺、ハイじゃなくて!

「お冷やです。ご注文決まりましたら呼んでくださいね」
「あ、どうも」

 いや俺ホント腰落ち着けてお冷やとか飲んでる場合じゃないから! ほら! 携帯に副長から不在着信が15件と、沖田隊長から……えっ、イタズラメール20件……何してるんだあの人……。
 でも、何も注文せずに店を出るのも失礼だろう。とりあえずドリンクを頼み、一気に飲み干した。その時、ちらりと視界に入ったのは……なまえちゃん。小さな体で器用にバランスを取りながら、大皿をいくつも運んでいる。

「やっぱり可愛いな、なまえちゃん」

 ぼそりと呟いて、お勘定を済まそうと席を立つ。すると、ぼんやり惚けていたせいで誰かと勢いよくぶつかってしまった。


 どん、


「……あ」
「すみません! よそ見をしていて……あれ? 山崎さん、ですよね? よく来てくださってる」
「えっ、知ってたの…?」
「えぇ。素敵な方だなと思ってて。あ…やだ、私ったら何言って…!」
「……なまえちゃん」


 この想いが伝わる日も、そう遠くはないのかもしれない。



*擬音語お題より

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