「こうすけー、こーすけくーん」
「……ん…」

 休憩でベンチに戻ってきて、私からタオルを受け取った瞬間に倒れ込むようにして寝てしまった孝介。呼ぼうが揺すろうが、反応がない。気持ち良さそうに寝ているし、部活もあと少しで終わりなので、監督の許可をもらって起こさずに寝かせておいた。
 結局孝介が起きることなく、部活が終了。あちー! と叫びながらベンチへ戻ってきたのは、悠一郎と勇人だ。

「あっれー? 泉まだ寝てんの?」
「うん、かなり疲れてるんだろうねー。あ、千代にノート返すの忘れてた! 予習あるって言ってたのに……」
「今帰ったばっかだし、まだその辺いるんじゃない? 泉なら俺たちで起こして着替えさせとくから、行ってきたら?」
「ありがとう、勇人! 悠一郎も!」
「おー!」

 2人にお礼を言って、鞄からノートを取り出して千代を追う。千代は職員室に寄っていたようで、昇降口から出てきたところにちょうど会うことができた。



「ふう、ノート返せてよかっ……あれ?」

 一安心してゆっくり戻ってきたら、ベンチに不機嫌そうに座る孝介が見えた。無理やり起こされて機嫌が悪いのかと思い、恐る恐る孝介の顔を覗き込んでみると、ぎゅうっと抱きしめられた。

「こ、孝介……苦し」
「遅いっつーの」

 少しだけ緩められた腕の中で孝介を見上げると、優しく唇が触れた。

「あんま遅いから、先に帰ったのかと思った」
「ごめん。千代と話してたの」
「……篠岡と俺、どっちが大事?」
「どっちも」
「…ふーん。帰るぞ」
「え、待っ……着替えてない!」

 慌てて部室へ戻ろうとしたら、壁の向こうから悠一郎と廉くんがこっちを見ていた。きっと廉くんは、強制的に悠一郎に連れてこられたんだろうと思う。

「……何してるの?」
「え、あ…う! ご、ごめ、あの」
「いーなー、泉! 今キスしてただろ! 俺もやっぱ彼女ほしー!」
「作りゃいいだろ」
「んな簡単にできねーんだって!」
「………」

 キスしてるところを見られて心なしかイラつき始めた孝介を横目に、涙を流して謝ってくれる廉くんをとりあえず慰めるのだった。



「うっ…あ、ご、ごめ…ん、ね!」
「廉くん、私は怒ってないから。ね?」
「ほ、ほんと…?」
「うん。ほんとだよ」
「よ、よかっ…」
「ああ、泣かないで廉くん!」


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