周りが徐々に受験勉強始めたり求人情報見たり自分の道を考え始めている中で、進路考えねーとなーってのんびり歩いてる自分がいる。何やってんだ俺。部活も引退して、下の世代への引き継ぎも終わって。でも、季節はまだまだ夏なわけだ。
 未練たらしくグラウンドからの金属音に耳を傾ける。カキーンと音がする度に、気持ち良さそうに打ってんなぁと意識の遠くの方で思う。

「慎吾先輩」
「……なまえ」

 後ろから聞こえた声に振り向くと、ジャージ姿の後輩の姿があった。そっか、お前も今から部活か。そうだよな、マネージャーだもんな。近寄って頭に手をのせて何度か撫でてやると、その大きな丸い瞳に涙が溜まる。

「ちょっ、俺何かしたか?」
「いえ、あの……何でもないんです」
「……何でもなくて泣くか? 普通」

 ぐにっと頬を摘んで引っ張る。想像以上に柔らかくてよく伸びる頬は、このままどこまでも伸びそうだ。なまえは目に溜まった涙を手で拭い、すんと鼻を鳴らしながら俺を見上げた。おお、もう鼻と目が赤くなってる。

「せん、ぱい」
「ん?」
「あと半年で、先輩、いなくなっちゃう、っく、」
「………」

 …………なんだこいつ、可愛い。

「何、寂しいの?」
「っう……」
「………」

 意地悪のつもりでニヤニヤしながら聞いてみたら、泣きながらこくこくと一生懸命頷かれて、意外と素直に寂しがっていることに驚く。
 マネージャーとして接してるときって、こんなキャラだったか? なまえって。いや、試合負けたときだって、こんなにメソメソはしてなかった気がする。

「先輩が、いないの…いや、ですっ」
「……なまえ」

 初めて見る反応に驚きながら頭をできるだけ優しく撫でてやると、きゅっと俺の制服のシャツを掴む小さな手。その手を軽く握って顔を覗き込むと、見ないでください! と真っ赤になって目を逸らした。

「っは、真っ赤」
「わ、笑わないでください!」
「そうかそうか。そんなに俺を好きだったのか」
「う…」

 恥ずかしそうに逸らされた顔を向き直させ、涙を堪えるために固く結ばれた唇をなぞる。小さく反応して薄く開いたところを逃さずに塞ぐと、涙目が大きく見開かれた。

「んな顔すんな」
「っ、でも」
「俺も好きだっつったらどうする?」
「……えっ、ほ、ほんとですか?」
「っぷ……はは、」


 もどかしい差
 たかが1年、されど1年


「笑わないでくださいったら!」
「だってお前、また真っ赤」
「……和己先輩に訴えますよ」
「なんでだよ!」


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