「起きろ」
「あてっ」

 俺の目の前にいるヤツの頭を、べしっと教科書で叩く。人が教えてやってるっていうのに、何なんだその態度は。気の抜けた声、眠そうな目。眠いのはこっちだっつの、明日も朝練あるってのに。

「何、孝介……」
「………は?」

 何って言ったか? おいおい勘弁してくれ。ああ、寝ぼけてるのか。嫌でも今すぐ目を覚まさせてやる。頬をぎりっと抓り、「起きろっつの」と黒いオーラを出してやったら、涙目になって飛び退いた。なんだ、元気じゃん。

「痛い!」
「寝るのが悪い。早く続き」

 これ解いてみ、と問題集のページを適当に開いて指差す。俺も勉強が凄い得意ってわけじゃねーけど、これくらいなら見てやれる。
 いくらなまえでもこの程度の問題なら……いや、俺の判断が間違ってた。なんでこんなにダメなんだ? 公式使えば一発だろ。あ、公式を知らないのか。

「なまえ…お前授業聞いてた?」
「や、その…えっと……授業中は主に孝介の背中を見てます」
「黒 板 を 見 ろ」

 ダメだ、こいつダメだ。なんで主に俺の背中を見てるんだよ。授業中に妙に気配感じると思ったらお前かよ。何となく予想はしてたけど。
 もう今のでドッと疲れが押し寄せてきた。花井頼む、代わってくれ。なんでなまえに勉強教えることになった時点で、花井先生を呼ばなかったんだろう。

「ねぇ、ねぇ孝介」
「んあ?」
「教えて…」

 ……花井やっぱ来なくていい。俺、なまえのこの顔は誰にも見せたくねーわ。涙目で頼んでくるのは反則。この目で見られたら、理性が強そうな花井だって簡単にグラつくに決まってる。
 ああ、この目で頼まれたから俺、断れなかったんだっけ。徹夜になるって分かってたのに。

「………」
「孝介ー? 孝介ってば、っうわ!」

 フリーズしたままの俺の顔を覗き込むなまえの腕を思い切り引き、顔をぐっと近付けると、みるみる赤くなる頬に満足する。ちゅっと小さく音を立ててキスした後、驚いて目をぱちぱちさせているなまえに言った。

「これからこの問題集から俺が出す問題、1問でも間違ったら寝かせねーから」

 直後、真っ赤から真っ青に顔色を変えたなまえから「えー!」とか「そんなー」とか色々聞こえてきたけど、今回はそれはスルーってことで。



「……うわ初っ端間違った」
「一応聞くけど……わざと?」
「ちっ、違うから絶対! 本当にわかんないどうしよう!」


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