「しゅーちゃん!」

 呼び止められて、ちょっと驚いた。ここグラウンドだし、なまえは別にマネジでもないし。つか、もう帰ったと思ってた。暗くなる前に帰るのがモットーのくせに。

「何だよ、帰ったんじゃねーの?」
「一緒に帰ろ!」
「は? てか、なんでまだ学校いんの」
「居残り」

 どうやら居残りをさせられていたらしい。情けねーやつだな、どうせ英語か何かだろ。こいつ昔「come」を「コメ」で覚えて、テストで「kome」って書いたからな。ローマ字が限界なんだ、きっと。いや、今はそんなのはどうでもいい。

「……暗いの怖くて帰れないんだろ。途中で街灯少ない道あるし」
「ち、違うし! 修悟が、いつも1人じゃ寂しいだろうと思ったの!」
「へぇ? そりゃどーも。俺は大丈夫だから帰れば? ばいばい」
「………」

 ちょっと意地悪して踵を返すと、くいっと引っ張られるユニフォームの裾。まったく予想通りすぎる反応だけど、吹き出しそうなのを堪えて「なんだよ!」といかにも迷惑そうな顔を作って振り向いた。

「……怖いんだよ」
「最初からそう言えっつの」
「だって修悟笑うじゃん」
「別に笑わねーって」
「うそだ!」
「うそじゃねーよ、だってお前女じゃん。暗いとこ1人で帰んの、普通嫌だろ」

 真っ赤になりながら一瞬ぴくっと固まったのを見て、こいつ可愛い反応もできるのかと感心する。でも、だんだん俺まで恥ずかしくなってきたから、「仮にもな、仮にも女!」って付け足したら、鞄で背中を殴られた。

「って! お前、鞄で殴んなよ!」
「修悟のばか! ばぁああか!」
「ばっ、静かにしろっつの!」

 何人か部員が振り向いたけど、特にイジられずに済んだ。イジられっと面倒くせーもんな。

「まー、一緒に帰ってやらなくもねーけど」
「けど?」
「条件あんだけど」
「え、条件?」
「ん。手出してみ」
「手?」

 不思議そうに差し出された手をギュッと握り、「この状態でなら帰ってやるよ」と言ってみる。さっきより真っ赤になっていく顔。あー、ホントおもしれー。


 手繋ぎの帰り道


「なんで今日そんな大人しいの?」
「だって手繋いでるし…その、」
「……っ、ぷはっ…くく」
「わ、笑うな! 修悟のばか!」
「はいはい」


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