起きろ――なんとも簡潔な一言とともに、鼻が摘まれた。息ができなくなって、嫌でも目が覚める。

「な、何!」
「何じゃねーって。今何時だと思ってんの、お前」

 孝介が時計を指す。やば、10時だ。私は確か昨日……うん、「9時に孝介ん家行くね!」って言ったんだ。あれ? なんで孝介が私の部屋に。

「お前よくもまあ、彼氏の誕生日に家行くって言っておいて寝坊できるな…」
「ご、ごめん! すぐ準備する、準備するから!」

 ベッドから転がるように降りて、とりあえず顔を洗いに洗面所まで行こうとしたら、パジャマがわりに着ているスウェットの襟をがっしりと掴まれた。

「孝介! 首、しまる!」
「なあ」
「へ?」
「お前さ、これ作るために夜更かしとかした?」

 孝介の手には、しっかり冷やしておいた手作りのチョコ。そうだ、家族に見られたら絶対に恥ずかしいから、自分の部屋のミニ冷蔵庫に移したんだった。

「え、えっと…」
「……」
「はい。夜更かし…しました」
「お前寝とけ」
「わ!」

 今度は急にベッドに倒され、布団を掛けられる。孝介はベッドの脇に座り、断りもなく包みを開けてチョコを食べ始めた。彼のために作ったものだし、食べてもらっていいんだけど、あれ? なんで私寝かされたんだろう。

「いーから寝ろって」
「でも」
「……まあ、不味くはないんじゃね?」

 それが彼にとっての精一杯の「美味しい」だってことには、すぐに気付いた。包まった布団の隙間から見えちゃったんだもん、チョコ食べた後の優しい顔が。


 Happy birthday !


「ねぇ、美味しい?」
「……だから、不味くはねぇって」
「素直じゃないなあ」


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