利央のやつ、見つけたら尻尾を千切ってやる。いや、実際は尻尾なんかないけど。ちょっとパン買ってくるの頼もうとしたら、なまえの所に逃げやがった。あいつは最初に紹介したときからなまえに驚くほど懐いているし、なまえを探せば絶対に利央がいるはず。だからんなとこ逃げても無駄だっつの。

 ……ほーらな、いた。

「わぁああ準さん来たぁあ!」
「利央、大人しく出てこい。ちょっとパン買ってきてくれって言っただけだろ」
「なまえ先輩助けて!」

 その潤んだ目光線を出せばなまえが自分を庇ってくれるとか思ってんだな、きっと。無駄だって言ってんだろ、そいつ俺の双子だぞ? あいつ馬鹿か馬鹿なのか。

「え、利央くんパン買ってくれるの?」
「……へ?」
「私はチョココロネがいいなあ」
「うっ」

 ふんわり笑うなまえに、戸惑う利央……馬鹿め。初対面のときのなまえなんて大人しいもんだ。皆すっかり騙される。良く言えば小悪魔ってやつ? ……こいつ、弁当忘れたとしても全く困ったことないんだろうな……それより利央、顔赤くして何考えてんだ。

「準太!」
「なまえ、また弁当忘れたのか?」
「チョココロネ食べたくて」
「……最初っから俺か利央に買わす気だったろ」
「えへ」

 いまだに状況が飲み込めてない利央は、なんて幸せなやつなんだ。仕方なく財布を出して、利央に千円札を渡す。やつは頭上に「?」を散らしていた。

「チョココロネ2つ」
「準さん、俺パン屋のおばちゃんじゃないっすよ」
「早く」
「……和さんに訴えてやる!」

 走り去っていく利央を見送っていると、俺の制服のポケットから飴を見つけ出したなまえが「悪い先輩だねぇ」と笑いながら、袋を開けて勝手に食う。お前も充分悪い先輩だよ、と頭を叩けば「痛ぁ!」と大袈裟な声が返った。

「そんなこと言いつつ、チョココロネは買ってくれるんだ?」
「るせーよ、今日だけだかんな」
「それもう何十回目かなー」
「るせーな」
「痛っ」

 今度はグーで軽く小突くと、後ろから冷やかすような声がかかる。

「仲良いなーお前ら」
「本当に双子か? 彼女じゃなく?」
「……和さんたち、それ以上言ったら怒りますよ俺」
「準太、私彼女に見えるってさ!」
「何喜んでんのお前」

 きゃー! と抱きついてくるなまえを引き剥がせない自分も情けないけど。廊下でイチャイチャすんなよーと余計な言葉をかけられた直後、息を切らした利央が戻ってきた。


 高瀬家双子は後輩使いが荒い


「明日は利央にコンビニ弁当頼むか」
「そうね。麻婆豆腐丼がいい」
「何それ美味そう……俺もそれがいい」

「和さん酷いんすよ! 準さんたちが」
「落ち着け利央、そして諦めろ」
「……和さんまで」


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