今日も空が青いなあ、こういう日って気持ち良いよなあ、今日も暑くなんのかな、また汗びっしょりになるなぁ――ぐだぐだと頭の中を巡らせていたら、隣に座ったのは見慣れた手書きの1番のユニフォームだった。おお、三橋だー。声を上げると、三橋はこれからメシなのか、そわそわしながら弁当を開き始めた。さらにその隣には田島も。

「これから弁当? 昼食ってねーの?」
「これは部活直前用! なー三橋」
「うん! 昼、だけじゃ…足り、ない、っから!」
「へー。じゃあ弁当ふたつ目かぁ」

 よく食うなーって隣の2人を見ていたら、小さいのが寄ってくるのが見えた。何だろ、と身を乗り出してみると、これもまた見慣れた姿で。

「文貴ー!」
「おー、やっぱなまえだ。どしたー?」
「これ教室に置きっぱだったよ」
「あー! やっべ!」

 日誌完全に忘れてた! そういや俺日直だったっけ。まだ日付すら書いていない。休憩中にでもササッと書いて……あ、書いてないの分かってたから職員室じゃなくて俺のとこに持ってきたのか。そういうところはよく見てんだよなー、こいつ。

「あ、なまえちゃん!」
「千代だー!」

 篠岡に気付くと同時に、嬉しそうに飛んでいって抱きつく。篠岡が持ってたノートが足元に落ちたけど、なまえは全く気にすることなく擦り寄っている。なーんかこうやって見てると、犬みたいだなー…なんて。
 篠岡の後からグラウンドに入ってきた皆は、誰? とか小声で言いながらバッグを下ろす。俺は落ちたノートを拾い、なまえの首の後ろを掴んで篠岡から剥がした。

「あああ、千代ー!」
「篠岡に迷惑かけない! ほら、ごめんなさいだろ! はい、篠岡。ノート!」
「ありがとう。あっ、迷惑なんかじゃないからね、なまえちゃん!」
「うう……ごめんなさい…」

 日誌持ってきてくれたのはお礼言うけど、なまえはもう帰りなさい!――手を掴んで出入口へと連れていく。俺に注意されたせいか、耳も尻尾も垂らした犬のようにしゅんと小さくなって出ていった。「まだ怒ってる?」と言いたげな視線で何度かこっちを振り向くもんだから、仕方なく校舎まで送ることにする。

「あの犬みてーな感じ、めちゃくちゃ誰かに似てんだけど」
「俺も思った! 誰かなあの子」
「なまえちゃんは水谷くんの妹だよ。知らなかった? ……あ、そっか! 泉くんと栄口くんはクラス違うから、全然会わないもんね」
「……え、水谷の?」
「双子なんだって。そっくりだよね! 2人揃ってなんだか子犬みたい」
「子犬……なんかしっくりくる…」
「水谷くん、なまえちゃんといるときはちゃんとお兄ちゃんらしいところがあるんだね」
「水谷が…お兄ちゃん…」
「……そっちはしっくりこねーわ」


 水谷家の双子は………子犬?


「文貴、まだ怒ってる?」
「えっ? 最初からそんなに怒ってないよ、俺」
「あれ? そーなの?」

「もしや水谷家って……祖先は犬?」
「いや、そんな馬鹿な」


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