「ねえ孝介」
「やだ」
「まだ何も言ってないよ」

 頬杖をついて教科書を捲る俺に、上目遣いで精一杯可愛くお願いしようとしてくるコレが、俺の双子。真横から田島と三橋が、俺とコレをじーっと見ながら目を輝かせている。何なんだ、さっきから。

「で、お前らは何?」
「やー……双子って本当に顔同じなんだなー、タレ目とか! そばかすも同じ」
「髪、も! 癖っ毛の、位置が、一緒!」
「毎日見てんのによく飽きねーな」

 毎日毎日同じ教室で俺らのこと見てるってのに、本当よく飽きねーよな。1日見れば慣れるだろ普通。つか、見られてると結構気になるんだよなー、やっぱり。落ち着かねーんだもん。

「なまえは何?」
「え?」
「用あんだろ」

 なまえが可愛くもない上目遣いするときは、何か頼みがあるときじゃん。そう言ってやったらビンタが飛んできた。躱したけど。ぱしっと手首を掴んでにやりと笑えば、諦めたように手を引っ込めた。

「プリント見せて」
「は? プリント?」
「忘れてたの、宿題。昼休み中にうつすから貸してください」
「……いーけど、昼休み終わったらすぐ単元テストだぞ。そっちの勉強しねーの?」

 ほら、と読んでいた教科書を見せてやると、サーッとなまえの顔から血の気が引く。さては今日テストあること忘れてたな。きっと昨日も何もしないで寝落ちたんだろ、21時くらいにすでになまえの部屋の電気消えてたし。

「どうしよう孝介」
「知らね」
「助けて孝介」
「ばーか、自業自得」

 なまえの額にデコピンを食らわせる。プリントだけ出して、まあ頑張れよーとニヤニヤしながら声をかけておいた。すると田島がなまえとの間に三橋を挟むようにして、なまえの頭をガバッと抱え込み、髪をぐしゃぐしゃ。そして満面の笑みで一言。

「明日の昼メシ賭けよーぜ! 単元テストの点低かった方が奢りな! 三橋も入るか? あ、泉はダメ! ぜってー泉が勝つから!」
「わかってるよ」
「俺、もっ! や、る!」
「ははは、後悔するなよ悠一郎!」
「えー? 俺なまえよりは頭いい自信ある」

 ……マジで田島に点数負けたら双子として恥だし、罰としてなまえの髪を右側だけ超ショートとかにしてやろう。さぞかし変な頭になるだろうと想像して吹き出すと、何笑ってんの! となまえが睨んでくる。怖くねーけど。

「ま、頑張れ……ぷくく」
「孝介それ以上笑ったらモモカンに言うからね。モモカン私の味方だもん」
「あ、ずりーぞ! このやろ!」

 声を上げて抵抗するなまえのこめかみに、拳を当ててぐりぐり。なまえから何とも言えない情けない声が漏れた。

「落ち着け泉! なまえの頭割れる!」
「こんぐらいで割れねーよ、こいつ石頭だからな」
「孝介重い!」

 なまえに体重を預けて田島と話してたら、辞書を借りに来た水谷が一言。

「んあ、泉が泉とじゃれてる!」

 ……そんな似てるか? 俺たち。


 泉家の双子は瓜二つ
 …まあ、見た目は似てなくもねーかもな


「こ、孝介……これを見て…」
「何だよその点数」
「奇跡だよ!」
「ああ、奇跡だな」
「名前書き忘れたーーー!!」

「うはは! なまえ、れーてん!」
「俺っ、15、点っ!」
「俺は12! なまえの負けー!」
「うう…」
「お前明日から髪右側だけショートな」
「ええ! 何それ聞いてない!」


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