ここは真選組屯所の一室、今は夜だ。
 昼間に処理しきれなかった書類に目を通す俺の隣で、まだドタバタと走り回っているのは娘のなまえ、そしてなまえを追いかけて遊んでくれているトシ、そのトシを個人的な目的で追いかけている総悟だ。

 総悟が物騒なモンを担いでいるのは多少気になるが、あのトシが幼子のなまえと遊んでくれるとは。ちゃんと煙草も、この室内では我慢してくれているのだ。
 山崎が用意してくれた緑茶を飲みながら、また書類へ目を向けて署名をしていく。

「あ、おい! 待て、なまえ! チッ…ちょこまかと…!」
「トシー! こっちこっち!」
「待ちやがれ!」
「あ、おい! 待て、土方! チッ…ちょこまかと…!」
「…お前、目が本気だぞ」

 そんなやり取りに口元を緩ませながら時計を見れば、もう11時。幼いなまえはそろそろ眠くなる時間だろう。山崎に視線で合図を送ると、軽く頷いて布団を用意してくれた。俺が忙しい時になまえの面倒を見てくれている山崎は、小さな寝床を整えるのも手慣れている。

「なまえ、山崎が布団を敷いてくれたぞ。そろそろ寝なさい」
「えー…トシと総悟お兄ちゃんと、まだ遊ぶ!」
「なまえちゃん、俺が絵本読んであげるから。お兄ちゃん達とはまた明日ね?」
「そうだぞ、なまえ。山崎に本読んでもらって、また明日トシ達に遊んでもらうといい。2人を非番にさせよう。約束だ」

 頭を撫でると、納得したのか大人しく布団へ入る。その頭をまたトシと総悟が代わる代わる撫でていき、山崎は布団の横に座って、なまえのお気に入りの絵本を開いた。



「……はぁ、やっと終わりか」

 書類整理が一通り終わると、すっかり冷えてしまった緑茶の残りを飲み干して、グッと伸びをする。

「そこでおばあさんは……あ、」
「どうした、山崎」
「なまえちゃん、寝ましたよ」

 山崎は小声で言うと、立ち上がって襖を開けた。

「俺も明日は大事な潜入捜査があるんで、そろそろ休ませて貰います。なまえちゃんも寝ましたし」
「ああ。いつも済まないな、山崎」
「いやぁ、俺も好きでやってますから。なまえちゃんも、よく言う事を聞く子ですし」
「これからもなまえには手を焼くと思うが…遊んでやってくれると嬉しいよ」
「もちろんです」
「…よろしく頼む。おやすみ」
「ええ。それじゃ、失礼します」

 山崎が部屋を出た後、自分もなまえの隣に布団を敷き、その寝顔を覗き込む。もうぐっすりと眠っているようで、規則正しい寝息を立てていた。トシ達と遊んでいる夢でも見ているのか、口元はうっすらと微笑んでいる。

「なまえ。遊んでくれる兄貴分が何人も出来て、よかったな…毎日楽しいだろう?」

 眠っているなまえが答える筈などないが、問いかける。

「…んん………おと、さ…ん」
「!……はは、夢の中で俺も一緒なのか? そうか、みんな…一緒か」

 そう言って笑うと、なまえの小さな手が俺の指を掴んだ。その瞬間何故だか俺は、涙が止まらなくなった。


 真選組の、"みんな"が家族。


 俺は正直、なまえをしっかり育ててやる事が出来るのか、不安だった。だが、お前には――いや、俺達には――こんなに大勢の"家族"がいる。
 男ばかりのむさ苦しい大所帯だが、お前が元気に育ってくれりゃあ、それでいいんだ。


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