どすどすと大きな足音を立てながら、廊下を歩く。実は今、激しく苛ついている。理由は他でもねェ――。

「つるりーん!」
「副隊長……」

 ……この人だ。さっきからずっと後をついてくる。面倒すぎて適当に相槌を打ちながら一方的に聞かされる話を聞き流していたら、真面目に聞かないと隊長を呼ぶと脅された。しかもさっきから、つるりんつるりんと……何なんだ一体!

「あの」
「あ、なまえーっ!」

 何なんスか、と聞こうと振り向いたが、逆方向へと走り出す副隊長。その先を見れば、俺の姉であるなまえが居た。姉と言っても1つしか違わず、ほとんど友達みてェなもんだと思って接している。

「なまえ」
「まったく、一角! 私は一応姉なんだから、姉さんとか呼んでみたらどうなの?」
「なまえはなまえだ」
「……もう」

 頬を膨らますなまえの足元には、さっきまで俺についてきていた副隊長。

「やちるちゃん。一角がいつもお世話になってるわね。素敵なあだ名まで付けてもらっちゃって」
「なっ、素敵って「でしょー! 今度なまえにも付けてあげる。剣ちゃんと一緒に、いいの考えとくね!」……」
「ありがとう。じゃ、私達そろそろ戻るわね。おやすみ」

 副隊長の頭を撫でた後、俺の頭を無理矢理下げさせると、一緒に隊舎へと戻る。まったく、つるりんが素敵なあだ名だと? 笑わせてくれるぜ。なまえも副隊長にめちゃくちゃ変なあだ名付けられちまえ。

「一角」
「…んあ?」

 不意に声をかけられて、気の抜けた返事をする。なまえを見れば、真剣な面持ちだった。

「な、何だよ」
「明日から任務なんだって? ちょっと危険な任務みたいじゃない。大虚も出没する地域に行くって聞いているわ」
「……ああ、まあ。それが何だよ?」
「怪我して帰ってきたら、怒るわよ」
「………」

 ――答えられねぇ。

 全く怪我しない……わけねぇよな。大虚が相手だし、数も多いと聞いている。だが、心配かけねぇ方が、いい…んだよな。

「大丈夫だ、俺は」
「………うん」

 話している間に部屋の前に着き、小さく手を挙げて襖に手をかける。少し離れた自室へ歩いていくなまえの背中に、ぼそりと呟いた。

「おやすみ………姉ちゃん」


 聞こえてたら、恥ずかしいけど


「ふふ、一角ったら…」

(ありがとう、頑張ってくるのよ)


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