「あーらら。なまえ、こりゃあ……」
「……………」
「また派手にやりましたねェ」

 最近忙しくなってしまった愛する兄のため、頑張って夕飯を作って休んでもらうつもりだった……が、とても悲惨な事態になってしまった。
 焼き魚は焼きすぎて焦げてしまい、サラダ用の手作りドレッシングは砂糖と塩の分量を逆にしたし、ご飯は水が多過ぎたのかベタついた炊き上がりに。

 せめて兄が帰る前に元の状態にしようと必死に片付けたが、途中で兄が帰ってきてしまった。さすがの兄も、扇子で口元を隠してはいるものの、呆れているのだろう。

「ま、晩御飯はアタシが作りますから。なまえは部屋で、雨達とでも遊んでてやってください」
「……ごめんなさい」
「いいや。なまえがアタシのために晩御飯作ろうとしてくれてたっていう事実だけで、充分っスよ」
「な、何でそれ…!」
「なまえの考えそうな事くらい、すぐ分かりますよ」
「う」

 我が兄ながら、この人には本当に敵わない。昔から私の事なんて、何だってお見通しなんだから。もう一度だけごめんなさいと謝って、部屋へ戻ろうと振り向くと、後ろから大きな手に頭を撫でられた。

「晩御飯、すぐ出来ます」
「……はい」
「もう少しなまえが大人になったら、またアタシにご飯作ってください。そん時は、ご馳走をお願いしますよ」
「! ……うん!」
「……楽しみに待ってます」

 兄の手が離れた時、くすりと笑うのが分かった。とりあえず今は雨ちゃん達の相手をしてあげて、夜中にこっそり料理の勉強をしよう。


 いつか必ずご馳走を!


「お兄ちゃん、醤油とソース間違えた」
「……まだまだ先は長いっスね……」
「が、頑張る! 頑張ります!」
「分かってますよ」


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