何だかさっきから、なまえの視線を感じる。ボク何かしたやろか?

「なまえ、どないしたん?」
「へ?」
「……ボクの顔に何かついてる?」
「ううん」

 珍しく真面目に執務中だった手を休め、なまえの方へと目を向ける。相変わらず丸く大きな瞳は、ボクの方をジッと見つめたまま。何なんやろか……。

「あー……なまえ?」
「……あ、ごめ…」
「ほんま…どないしたん?」
「い、いや」
「顔赤いで? 熱あるんちゃう?」

 なまえに近づき、額にそっと手を当てる。やっぱり少し熱い気がする。やはり熱があったのか。

「なまえ、ボクの事待たんでええから。なまえは部屋で休んでや?」
「お兄ちゃん、寝ないの?」
「ボクはまだ仕事あるしなぁ…」
「……あっちの部屋は、暗いから嫌」
「困った子やなぁ、なまえは」

 軽く頭を掻いてなまえの顔を覗き込むと、さっきよりも赤くなっている気がする。熱が上がってしまったんやろか。一緒に部屋に戻ってやりたいが、今溜まっている仕事をやっておかないと、明日イヅルに叱られる。

「しゃあないなぁ…」

 薄い毛布を持ってきて、椅子に座らせたなまえに掛けてやる。

「ボクの仕事終わるまで、ここでちょっと待っとってな?」
「う、ん……」

 そのままなまえは眠ってしまい、その頭を何度か撫でてやった後、再び書類に目を通し始めた。こら早よ仕事済ませて、なまえを寝かせてやらなアカンなぁ。

 口元をいつも以上に緩ませながら、可愛い妹のために仕事を済ませた。



「あれ、お兄ちゃん……」
「ん? もう大丈夫なん? 熱は……下がったみたいやな」
「お兄ちゃん、クマ。目元……」
「あぁ、久々にほぼ徹夜やったしなぁ」
「……お兄ちゃんこそ、大丈夫?」


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