藍染様から新たな命令を受けて出かける準備をしていると、部屋へ誰かが入ってきた。この小さな足音は、おそらく妹のなまえのものだろう。任務に出るのが近いと聞いて、見送りにでも来たのか。俺が出る前には、なまえは必ず見送りをしに来るからな。

「兄さん」
「何だ、なまえ」
「今日ね、とても天気がいいのよ」
「……そうか」

 妹であるなまえも、もちろん破面。俺には及ばないがそこそこの能力はあり、しばしば任務を任される事もある。それ以外では滅多に部屋を出ないからだろう、なまえは外を見るのが好きになった。毎日外を見ては、俺や他の破面に、今日は天気がいいだの雨が降っただのと報告してくる。

 ――今日は晴れ、らしい。

「今日は晴れだもの、きっと兄さんの任務も上手くいくわ」
「だといいがな」
「私も、外に出たい」
「駄目だ。藍染様から命が下るまでは部屋に居ろ、俺からもそう言ったはずだ」
「……分かってる」
「なら、そろそろ部屋へ戻れ。俺はもう出る。見送りはこれで充分だ」

 頭を撫でて言うと、少し寂しそうに下を向いて頷いた。余程外へ出たいようだが、出してやるわけにもいかない。まだ霊圧が不安定になりがちで、俺のように頻繁に大きな任務に行ったりは出来ず、小さな任務が回されるのを待たせるしかないのだ。また、それはなまえ自身が一番よく知っている。

「……そんなに外が好きか」
「……うん。好き」
「そうか」

 なまえの後に続き部屋を出て、なまえとは反対側へ向かって歩きながら言う。

「なら、俺が帰るのを部屋で待て」
「え?」
「……俺がついていれば、散歩程度なら外出の許しも出るだろう」
「兄さん…!」

 聞こえてきた声の明るさから、なまえの顔を見ずとも笑っているのが分かる。その声につられるように、俺の口角も持ち上がった。
 俺が微笑むなど、いつ以来だろうか――そんな事を考えながら、少しでも早く帰れるよう任務へ向かった。


 お前が外へ行きたいと言うなら、俺はいつでも出してやる。いつでも藍染様に頼んでやる。なまえ……お前の嬉しそうな笑顔を見ていると、何故だかとても気持ちが温かくなるんだ。



***
(虚圏に天気はあるのだろうか…)


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