夜。何だか眠れずに、縁側に腰を下ろして月を眺めていた。斬魄刀に目をやり、眠くなるまで少し鍛練でもしようかと考え始めた時、背後から物音がした。

「ルキア……?」
「姉様。どうかなさいましたか? こんな遅くに…」
「目が覚めちゃってね」
「……何かあったのですか?」
「ううん。違うわ」

 ルキアを隣へ座らせ、着流しを羽織り直して背を少し丸める。まだまだ秋に入ったばかりだと思っていたのに、夜になるとずいぶん冷え込むものだ。

「ルキアこそ、何かあった?」
「え?」
「それとも、私が起きた音で起こしてしまったかしら」
「いえ。ただ目が覚めてしまっただけなんです」
「そう」

 ……無理をしているみたいね。ルキアが今日1日元気がなかったのを、私は知っている。何かあったんでしょう?
 任務関係なのか、何なのか……そこまで詳しくは、分からないけれど。

「ルキア」
「……はい」
「何かあったなら話しなさい。悲しいのなら、泣きなさい」

 そう言って抱き寄せると、必死に抑えながら啜り泣く声が、小さく聞こえ始めた。こんなに小さな体で、あなたはいつも色々な事を抱え込む。どんなに心細かったろう。どんなにつらかっただろう。

「いいのよ、ルキア。今は泣きなさい」
「…ありがとう、ございます」
「ええ」

 背中を擦っていると、少ししてから寝息を立て始めた。すると、ちょうどよく向こう側から兄様がやってくる。

「兄様……」
「なまえ、ルキア。何をしている」
「目が覚めてしまって……ルキアは今眠ったところですが、私1人では運べなくて」
「……よい、ルキアは私が運ぶ。なまえももう休め。明日からの任務に差し障る」
「はい。兄様」

 部屋へ戻り、布団へ寝かされたルキアの髪を指で梳く。兄様はすぐに立ち上がり、部屋を出てしまったけれど。おやすみなさいと背中に向かって呟くと、襖の向こう側から「ああ」と短い返事が返った。

「おやすみなさい、ルキア」
「……姉、様………兄…様……」
「傍に居るわ。ちゃんと」

 ぎゅっと手を握って、心から願う。明日目が覚めたら、微笑ったあなたに会えるようにと。



「姉様、おはようございます」
「ええ。よく眠れたようね、顔色がいいわ」
「はい。姉様…その、ありがとうございました」
「いいのよ、元気になってよかったわ」


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