「お兄ちゃん」
「………」
「お兄ちゃんたら!」

 廊下でぺたぺたと小さな足音を立てながら、僕の後をひたすらついてくるこの女の子は、僕の妹のなまえだ。そんなに歳は離れていないし、そろそろ兄に対しても反抗期が来てもいい時期だと思うんだが…反抗どころか、どこまでもついてくる。

「……今度は何だい、なまえ」
「宿題教えて」
「昨日も教えたじゃないか」
「今日のは国語なの」

 ふにゃりと微笑まれては断る事も出来ず、仕方なく部屋へと入れてやった。うーん、うーん…と唸り声しか聞こえてこないあたり、本当に分からないのだろう。

「なまえ、もう分からないのかい?」
「ううん……問題文の漢字が読めないの」
「………」

 どうやら文章の読み取りや要約云々よりも、漢字の読みから教える必要があるらしい。

「プリント、貸してごらん」
「はい…」

 なまえから受け取ったプリントの中の、難しそうな漢字に一通り振り仮名を付けて返してやると、ありがとう、とまた微笑む。……僕は、この笑顔に弱いようだ。

「ほら、解いて。分からないところがあったら教えるから」
「うん!」

 黙々と机に向かう姿を見て、僕も微笑む。ちなみに後日、この宿題プリントは満点で返ってきた。……この僕が教えたんだから、当然だけれど。



「見て! また宿題プリント満点!」
「なんだ。出来ているじゃないか、なまえ」
「先生の言ってる意味は全然分からないけれど、お兄ちゃんに習うと出来るよ!」
「……嬉しいけれど…それはそれで考え物だな…」


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