拙者には姉が1人居る。血が繋がっているのかどうかは定かではないが、小さい頃から隣にはいつもなまえが居た。拙者は自分より年上のなまえをずっと“姉”として慕っていたし、彼女もそれを否定することはなかった。
 そして今は、このなまえとともに晋助の下で鬼兵隊の一員として動いている。

「なまえ、今日も散歩でござるか」
「うん。万斉も行く?」
「……いや。拙者はこの後、晋助に呼ばれているでござる」
「そ。気をつけてね」

 なまえは短刀だけを持った軽装で、船の甲板を歩く。ふと気配を感じて振り向けば、そこには晋助がいた。晋助は拙者の隣を通り過ぎて、なまえの肩を掴む。

「何よ、晋助」
「なまえ。お前は万斉と一緒に行け」
「へ?」
「晋助、それはどういう…」
「いいからなまえと江戸で降りろ。例の計画を進めてくれ」

 晋助は、頼んだぜ、と一言残して喉奥で笑いながら船内へと戻っていった。

「どうやら一緒にお仕事しなきゃいけないみたいね。万斉」
「そのようでござるな」
「あなたじゃ役不足だって思われたんじゃない? 頑張りなさいよ」
「……いや、きっと晋助は…」

 ――なまえを手元に置きたいだけでござろう。


「いつもふらふらと出かけていくなまえを、自分の目の届く範囲で動かしたいのだろう…晋助は」
「意味が分からないわ、万斉」
「……分からずとも良いでござる」


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