「姉さん」
「あん? ああ、なまえか」

 うとうととしている時に背後から声をかけられ、軽く警戒して振り向いたが、後ろに居たのは妹のなまえだった。兄貴が死んでから、ずっと護り育ててきた大切な妹だ。今日は早くから出かけると言っていたはずなのに、何故もう家に居るんだ。

「どうした、何かあったのか? 出かけたんじゃなかったのかよ」
「うん……ちょっと転んじゃって」
「あ? 転んだァ?」

 えへへと苦笑するなまえの膝からは、相当派手に転んだと見える出血。ったく、と呟いて立ち上がった。

「待ってろ、今薬持ってくっから」
「うん」

 ぺたんと座り込むなまえの前に胡座をかいて座り、傷口に薬を塗っていく。傷に染みるんだろう、時折顔を歪ませていた。

「そんなに痛ぇのか? なまえ」
「あ、ううん! 大丈夫!」

 涙目で大丈夫だと言い張るので、呆れの籠った溜息を吐いて包帯を巻いてやる。そしてその上から、終わったぞ! と軽く叩いた。

「いたっ」
「痛ぇんじゃねェか。嘘つくな」
「ごめんなさい」
「……もう少し気をつけろ、オメーは」
「え?」
「最近怪我だの何だの多いだろうが。足元よく見ろって、なまえにはいつも言ってんだろ?」
「今日は途中まで何もなかったんだよ? なのに、なんか躓いちゃって」
「……ったく。ま、派手に転んだみてぇだが、そこまで深い傷でもなかったからな。治りは早ぇはずだ」
「ありがとう、姉さん」
「おう」

 髪を梳くように撫でてやると、なまえは再び笑顔で出かけていった。何もねぇ所でスッ転ぶようなあんなドジな妹だが、大切で可愛くて仕方ねーんだ。



「姉さん……肘、擦りむいた…」
「……オメー、次から出かける時には杖でも持ってくか? それとも、毎回岩鷲に付き添わせるか? ん?」
「ご、ごめんなさい! 次からはもっと、注意しますっ…!」
「……分かればよし。ほら、手当してやっからこっち来い」


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