俺のメシはどこへ行ったんや………。

「なまえ」
「何や」
「……俺のメシ、知らん?」

 目の前でもぐもぐと、俺の茶碗と俺の箸、俺が買ってきたおかずでメシを食う妹に問う。俺の顔にはたぶん俗に言う、青筋っちゅーモンが数本浮いてるやろな。

「知らんけど」
「……」

 嘘や。俺の目の前で俺が用意した俺のためのメシを食いながら……よう真顔でそんな嘘が吐けたモンやな。もう拍手モンや。

「お前な……よくもまあ平気で、大好きなお兄様のメシをバクバクと食えるな!」
「へ? せやかて、ひよ里が『シンジが“俺のメシ食うてええ”言うとったで』って言うたから……お兄はメシ要らんのかと」
「要らん事あるか! 腹減りすぎて倒れる寸前や! ん…? ひよ里? ひよ里やと!?」
「だからそう言うてるやん」

 何やら視線を感じて周りを見回してみると、奥の襖の隙間から小っこい手が見えていた。さらによく見てみるとその正体は、いやーな顔してニターっと笑うひよ里だった。

「あいつ……この前間違ってひよ里の菓子食うた事、根に持ってんな…?」
「あぁ、そんな事ブツブツ言うてた」
「やっぱりか! てか……なまえ! 食うの止めんかい! 俺のメシやそれは!」

 今気付いたけど、いくら兄妹とはいえ兄貴が普段使うてる箸でメシ食うか? フツー。なんやこっちばっかり気ィ遣うてアホみたいやろ!

「何言うてんねん。シンジはもともとアホやろ」
「何か言うたかなまえ」
「私やない。私のうしろ」
「ケッ、ばーか! アホシンジー!」
「あ! ひよ里コラァ!」
「ひよ里。お兄とケンカすんのは別にええけど、唐揚げ取らんといてな」
「せやから唐揚げも俺のや!」
「唐揚げの1つや2つで……小っさい男はクズやなァ? なー、なまえ!」
「なんやと!? なまえも頷くな!」
「捕まえてみぃ、ハゲシンジ!」
「待てや、ひよ里! まずは唐揚げを皿に返せ!」
「もう外でやってやー。私食事中やで」
「せやから俺のメシや言うてるやろ!」

 今日も平子家とひよ里は、とても平和です。


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