私のお父さんは、なかなか構ってくれません。正直、少しだけ寂しいです。

「お父さん」
「……何、なまえ」
「おんぶ……」
「今度ね。めんどい」

 また、“めんどい”……こうして並んで歩いている時に、すぐにおんぶしてくれた事は……もしかしなくても、ないかもしれない。赤ちゃんだった頃なら、あったのかな…?

「お父さん」
「……今度は何? なまえ」
「ボールで、あそぼ」
「汗かきたくない。また今度」

 遊ぶのも、だめ…? じゃあ、何ならしてくれるの?

「お父さんいつも、“だめ”ばっかり」
「……え」
「私、お父さんとあそびたいよ」
「……なまえ」

 じわりと涙が溢れてくる。瞬きをすると、目に留まりきれなくなった涙が一粒、ぽろっと零れた。お父さんは一瞬驚いたように目を見開くと、眼鏡をかけ直してこちらへ手を伸ばした。そして親指で、涙を不器用に拭ってくれる。

「泣かれると、めんどい」

 そう言いながらもお父さんは微かに、本当に微かにだけど、微笑んでいて。ふわりと体が浮くと、お父さんの腕の中に居た。

「……これでいい? なまえ」
「………っく…うん…」

 ごしごしと涙を拭いて頷くと、お父さんがぎこちなく、けれど優しく、髪を撫でてくれた。



「犬ちゃん! 今日ね、初めてお父さんが抱っこしてくれた!」
「? なまえが生まれた頃なんて、人が変わったように抱っこしてたびょん」
「ほんと!?」
「あの頃は、抱っこさせてくれって頼んだら無言で睨まれたもんらびょん…」
「……犬、なんでここに居るの」
「げっ……やべ…」


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