俺の姉は、なまえという。真選組唯一の女隊士、そしてずば抜けて強く、近藤さんや他の隊士達からも一目置かれている。そんな姉を"なまえ"と名前で呼び始めたのはいつ頃だったか。…確か、"姉"としてでなく一人の"隊士"として見始めた頃からだった。

「なまえ」
「十四郎。どうかした?」

 しかし、戦場以外でのなまえはただの一人の女で、俺の姉だ。柔らかい笑顔で、ここに座りなさいと自分の隣を軽く叩く。おとなしく隣に腰を下ろすと、顔を覗き込まれた。

「何かあったの? 十四郎。また近藤さんに叱られた?」
「また、じゃねェ。この前のは総悟のせいだ」
「部下の不始末は、上司である貴方の不始末でしょう」
「……わーってるよ」

 総悟のせいにしないの、なんて軽く叱られる。なまえは総悟を弟みてェに思ってるからな…仕方ないと言えば仕方ないが。後ろから気配を感じて振り向けば、陰からひょこりと顔を出している総悟。ざまあ見ろィと口パクで言い残し、去っていった。

「あの野郎…!」
「なぁに、十四郎」

 そちらを睨んでいると、なまえが怪訝そうな顔で問い掛けてくる。何でもねェ、と咳払いをして新しい煙草に火をつけた。

「とにかく、そんな顔になるほど疲れてるって事なのよ」
「………」
「ちゃんと休みなさいね?」
「…あァ」

 小さく返事をすると、なまえは俺の肩を軽く叩いて、自室へと戻っていった。



「なまえ、土方さんに怒鳴られやした」
「総悟…珍しく落ち込んでいるのね。そんなに酷く叱られたの?」
「ええ、そりゃもう…」
「おい総悟! てめ、なまえに何を」
「十四郎。総悟を怒鳴っちゃだめよ」
「……総悟てめェ…」
「ざまあ」


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