「なまえねえさん」

 山のような宿題を夜中に片付けていると、小さい声が背後から聞こえてきた。突然聞こえた声に僅かに肩を震わせて振り向くと、弟の恭弥が枕を抱えて立っていた。

「どうしたの、恭弥」
「野良犬がうるさいんだ。ここでいっしょにねてもいい?」
「別にいいけど……」

 近くで鳴いている野良犬の鳴き声なんて……同じ家の中なんだもの、どこの部屋に行ったってあまり変わらないんじゃないかな。
 変な恭弥、と思いながらベッドの方へ顔を向けると、堂々と枕を置いて私の毛布に潜り込むのが目に入った。

「恭弥、明るくない? 電気」
「……へいきだよ」
「目擦りながら何言ってるのよ」

 仕方なく部屋の電気は消して、勉強机のスタンドだけを点けて宿題の続きをする。ちょっと暗いけれど、まあ見えなくはないからいいか。
 それより、恭弥があんなに陣取って寝ていたら私が入る所がないじゃない。今日どこで寝ようかしら…。

「……もう寝てる」

 横目で見た恭弥は、布団に包まって眠っている。すでに前髪のうちの一束が、外側にはねて寝癖になっていた。



「寝るの早いのね、恭弥は」
「なまえねえさん……やっぱりそれ、まぶしい」
「……分かったわよ、私ももう寝るわ」


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