「ちょっと、ベル! ベル?」
「何? なまえ」
「なまえ姉さん、でしょ! もう……私の作りかけのパンプキンパイ、またつまみ食いしたわね?」
「ししっ。俺はしてないよ」
「嘘ばっかり!」

 実の姉を呼び捨てにするこの子は、私の弟のベル。せっかくヴァリアーのハロウィンのために作ったのに……ちょうど一切れ分、ぽっかりと空いてしまった。絶対ベルだわ、もう。

「ベル、こっち向きなさい」
「やだ」
「……口元にカボチャが付いてるからじゃないの?」
「………」
「今、唇舐めたの見えたわよ」

 顔を覗き込みながら言うと、ベルが急に振り向いて、私の唇にキスをした。……って、唇、に!?

「べ、ベッ……ベル! 何するのよ!」
「だってなまえ、信じてくれないんだもん」
「だからって!」
「ししっ…だって俺、王子だもん」

 自称王子のこの弟は、姉である私にそう言ってのけると、にっこり笑った。

「じゃ、パンプキンパイの完成楽しみにしてるよ。なまえ姉さん」
「……もう!」


 ハッピーハロウィン?


「……ベル。いい写真が撮れたよ」
「ん、何? どんな写真?」
「姉弟のキス現場」
「……ししっ。売るなら高く売れよ」
「これは僕のコレクションにするよ」
「趣味悪いなぁ、マーモンは」
「ふん、お互い様さ」


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